少女の表情はあどけなさが残るが、その眼差しは眼鏡のせいばかりでない知性を宿し、かすかな憂いも含んでいる。視線の先には、コピーそのままに「未来」が広がっているのだろうか――。
子供の写真などでイメージ広告を展開してきた化学系専門商社の長瀬産業は2019年6月にクリエイティブを一新。同じ少女をモチーフにしたイラストで今年3月まで8回のシリーズ広告を日本経済新聞朝刊に掲載した。アニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」で知られるロシア出身のイラストレーター、イリヤ・クブシノブ氏の作だ。「女性」と「大胆な構図」は訴求力の王道ともいわれるが、広報・ブランディング室の高橋奈々子さんは「少女をアップにした当初3回の15段広告は当社の冒険だった」と振り返る。
だが試みは奏功。一般読者からも電話で反響が寄せられ、日本経済新聞紙面ビューアーでは全年代層・職層でアイキャッチ効果が認められた。昨年7月以降の5段広告はストーリー性も加え、SNSで同社の広告を探すファンも現れるなど認知度を上げた。
「会社が本当に変わろうとしていると分かった」など社内の声も驚きだったという。事業の変革を進める長瀬産業は、広告の「冒険」を通じ、内外への強いメッセージ発信を果たした。