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B2Bマーケティング&セールス成長戦略 (Ad Week Asia採録③)

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B2Bマーケティング&セールス成長戦略 (Ad Week Asia採録③)

B2Bの世界で顧客がサービス導入・購買を決定するまでの流れでは、認知から比較検討までをブランディングが、商談に持っていくまでをデマンドジェネレーションを担っている。ブランディングとデマンドジェネレーションについて、それぞれの考えと業務を互いにもっと理解できれば、マーケティングの効果はさらに高まるのではないか。このような問題意識から、日本経済新聞社とFinancial Timesは2019年のAdvertising Week Asiaで「結果に貢献するBtoBマーケティングを考える」をテーマにトークセッションを実施した。まず、デマンドジェネレーションについて、「商談創出のためのマーケティング手法とKPI」を3人のプロフェッショナルが論じた。

株式会社電通 ビジネスプロデュース局 統合マーケティングプロデュース部 梅木俊成氏

1978年生まれ。2006年からマーケティング、プロモーション、営業部門を経て2018年より本社第12ビジネスプロデュース局統合マーケティングプロデューサー。「脱広告ありき」をコンセプトに総合住宅メーカーやB2B企業(内資/外資)の国内外でのマーケティング及びセールス活動や新卒リクルーティングの支援を行う。B2B領域では電子機器部品や精密機械、ITソフトウェア等の商材を扱う企業にMA/SFA/DMP/BIといったテクノロジーの導入等、実績多数。

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意思決定プロセスが複雑なB2B企業

 電通と聞くと「生活者向けとしてのB2C領域で大きな案件を進めている」というイメージが強いかもしれないが、法人向けであるB2B領域ではブランド構築やデマンドジェネレーションといった案件もここ数年で急増している。今回はそれらの事例を踏まえて明日からできる「小さな始め方」についてお話したい。
 ブランドとデマンドの関係は、一言で言えば対になっている。ビジネスタイム以外も含む日常から関係性を深めていくことで、より一層の案件創出につながるのだ。

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ビジネスタイム以外も含む日常から関係性を深めていくことで、より一層の案件創出につながる

 電通が期待されるのはマーケティング施策の中でも「見込み客化」の部分と思われがちだが、B2Bでは、見込み客化の後の、商談化、受注、優良顧客化という一連の流れの管理と効果測定までしていかなければならない。例えばその流れのなかで失注となってしまった見込み客に対しては、リサイクルリード化して再びマーケティングオートメーション(MA)やデータマネジメントプラットフォーム(DMP)を活用しつつ見込み客化を図っている。また、お客様のなかにはマーケティング部門を持っていない企業も多いので、マーケティング組織の構築やセールスチームとのプロジェクト化からお手伝いさせていただくことも増えている。

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BtoBマーケティング&セールスの理想的な体制とスキーム

 B2Bマーケティングの特徴の最大の特徴は、購入決定プロセスが複雑であることだ。だから、その後どうするのか、という戦略なくしてテレビCMや新聞広告等のマスメディアを大量投下してもそれが営業支援につながらないことが多い。それよりはまず、展示会や電話営業で特定の意思決定者と影響者に限定してアプローチした方が効果的だ。実際に決裁をするのは部長や社長かもしれないが、影響を与えるのは課長や現場でのリーダー。役職は付いていないかもしれないが、根回しのうまい人も影響を与える人に入る。だから取引したい相手企業の意思決定者を取り巻く関係図をしっかりと把握することが重要だ。

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テレビCMを大量投下してもB2B商材はすぐには売れない

購買担当者の情報収集環境の変化

 B2Bの話をするとよく出てくるのが、「57%」という数値だ。これは「認知」「関心」「検索」「比較検討」「情報提供依頼」「企画提案依頼」「交渉」「購入」までの購買検討プロセスのなかで、購入検討者が57%に当たる比較検討までをインターネットを使って自分で情報入手してしまっているということだ。言い換えると、従来は売り込む側である営業マンが購買担当者に膝を付け合わせながら説明をしていたプロセスが減り、買う側である購買担当者がネットを活用して自前で疑問を解決してしまっているのが今の時代ともいえる。つまり、新規見込み客創出においてはオウンドメディアで適切なコンテンツ提供ができていなければ、コンペに声をかけてもらう機会さえ失っているということになる。

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購入検討者が営業に接触するまでにかなりの情報収集を行っている

「仕事上の製品・サービスの情報源」に関する調査を2017年と2018年で比較すると、1位は「企業のウェブサイト」で同じだが、49.6%から64.8%に大幅に増えている。B2B企業のオウンドメディアの重要性はますます重要になっているといえる。

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B2B企業のオウンドメディアの重要性はますます重要になっている

上層部の根気強い応援が成功のカギ

 B2B企業の戦略はアカウントベースドマーケティング(ABM)とインバウンドマーケティング(IM)の大きく2つが主流だが、何を基準にどこから始めればよいか迷ってしまっているのが実態だ。特に多くみられるのは「手段と目的の逆転」だ。MAというソフトウェアを自社に導入することがゴールとなってしまい、適切な運用及び改善のサイクルを回すところまで至っていないのがほとんどだ。
 成功している企業の共通点は、役員以上の経営層がきちんと重要性を理解して節目節目で現場を支援しているということだ。ここでは大手か中小企業かという規模の違いや、マーケティング及び営業との間でおきる社内セクショナリズムの有無は大きな要因にならない。MAを活用するということは、今までの営業活動の進め方自体を改革するものであり、マーケティング担当の対応領域が拡がるということを意味し、同時に営業担当の役割が変化することになる。マーケティング及びセールスのデジタルトランスフォーメーション(DX)によって今までの戦い方が変化するので、現場担当者レベルでは解決できないことが多い。特に大手企業においては上層部の支援なくして成功はありえない。
 一方、中小企業は意思決定スピードが早いため、大手企業がDX化で右往左往している間に急激に成長している。特にサブスクリプションモデルを採用するベンチャー企業に顕著だ。なお、トラディショナルな大手企業(特に非IT系)は、上層部からの指示があったとしても、社内セクショナリズムの力が強く働きうまくいかないことがある。この意味でも上層部はきっかけを作るだけでなく、旗振り役として根気強く応援しつづけなければならない。

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上層部の応援をもらってから始めるのが王道

営業担当に説明する時は極力シンプルに

 繰り返しになるが、うまくいっている企業の共通点は、上層部をうまく巻き込んで、マーケティング担当者と営業担当者がよく話し合ってから取り組んでいることだ。このことが分かっているのにできない企業も多くある。だからこそ、冒頭で述べた通り、小さく始めることが重要なのだ。早いサイクルで失敗を繰り返して経験が得られる。その際、営業担当者の多くは、マーケティングやテクノロジーへの興味をあまり持っていない前提で考えておくことも大事だ。「細かいことはわからないが、受注確度が高くなる、作業効率が良くなる、売上を作りやすくなるかもしれない」と期待させて協力してもらうことも大事だ。
 もちろん一度で確実に成功するほど簡単なことではないので、随時改善していくということもしっかりと伝えよう。推進段階でよくある失敗談は、社内でマーケティング担当がMA(またはDX)で実現できる様々な施策の説明に酔ってしまい、営業が話を聞いてない(たまに寝てしまっている)ことだ。基本的に営業は細かいプロセスには興味がなく、入口(施策のポイント)と出口(結果として数字が上がる)だけが知りたい、という前提で臨むべきだ。なお、営業の中からこのような施策にのめり込んで協力してくれるケースもある。このような人は積極的にマーケティング部門として応援していこう。

名刺の資産化とコンテンツマーケティングで小さく始める

 小さく始めるためにまず取り組みたいのが、机の奥に眠っている名刺の整理だ。例えば、なんとかアプローチしたい人が、実は他部署にいる先輩や後輩の知人だった、なんていうことがあるだろう。そうした「眠っている人脈」を生かせるようになるツールが、例えばSansanのような名刺管理サービス。今持っている財産をデータ化するということだ。

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名刺のデータ化と共有がスモールスタートの第一歩

 小さく始めるために取り組みたいことの二つ目は「マーケティング部門だけで案件創出」だ。商談レベルの案件を発生させ、見込み客が自分自身で営業部門に問い合わせが行くように仕向けてしまう。見込み客リストを生み出せるコンテンツマーケティングを実施して営業部門への問い合わせを増やし、営業部門からマーケティング部門にさらなる支援を求める流れをつくるのだ。ただ、この時に商談レベルではない問い合わせが多すぎると営業からクレームが入ることもある。MAとコンテンツでナーチャリング(見込み客との関係を深める)対策をしっかりとすることで冷やかしは激減するので注意しておこう。

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コンテンツマーケティングで案件を創出

 コンテンツを作る時の留意点は、事例紹介や自社の優位性を示す製品・機能情報は自社の課題と目的が明確な「顕在層」に提供すべきものであり、インターネット上で自由に検索する「潜在層」(将来顧客となりうる可能性のある見込み客)には刺さらないということだ。潜在層にはまず課題を認識してもらうことが大事だ。そのためにはいきなり成功事例で自慢話をするのではなく、ペルソナにとって有益な情報の提供からメルマガ登録を促してからMAで行動を把握しつつ、相手が話をしたいタイミング(気持ち)になったら自動メール(トリガーメール)でお伺いを立てるところからスタートすることがポイントだ。
 老舗半導体メーカー、ローム株式会社のデバプラ(https://deviceplus.jp/)は良いコンテンツ事例だ。まだ潜在段階にあるエンジニアにとっての「有益な情報」とは、新製品開発のアイデアとして参考にできる電子工作やロボット技術の仕組みだ(ただし、「有益な情報」はペルソナ調査によって変化する)。それを漫画やIT女子等、ちょっとした時間があるときにスマホでチェックしたくなるような「読み物」として楽しく無料購読してもらえる内容になっている。冒頭で述べた「ビジネスタイム以外も含めた日常から関係性を深めていく」施策は、テレビや新聞、または雑誌等の広告を打ち続けることを必ずしも意味しない。マス広告はウェブだけで小さく始めて成果を出した後に実施することでさらに効果が出ると考えている。
 なお、このコンテンツ戦略の考え方は、新規見込み客開拓に有効と思われがちだが、既存顧客へのクロスセル・アップセルを狙う意味でも有効だ。新製品のアップデート情報や社内セミナー情報ばかり送られてくると、すでに取引がある顧客でも迷惑メールフォルダに入れてしまうこともある。既存取引先との関係性を維持するためにもこのような「お役立ちコンテンツ」が必要だ。すでに取引がある顧客にメルマガ登録してもらうことで、まだ取引がなかった他部署からの引き合いが生まれるという事例は多数ある。メルマガ自体が売り込み情報ではなく、お役立ち情報であれば他部署に転送されるからだ。MAでメール開封状況を分析していると、送った通数よりも開封数が多い場合があるが転送されていることが要因であることが多い。あなたがすでにMAを使ってメール配信しているのであれば、転送してでも他の人にも知らせたい情報になっているか、例えば「あ!、このメルマガの内容は先輩が探してた情報そのままだ!」と思うコンテンツになっているかをふりかえっていただきたい。まだ着手していない方はぜひ試していただきたい。
 以下は私の好きな京都のラーメン屋さんを例に、潜在層が顕在層になるまでの検索行動を示したものだ。コンテンツ戦略の参考にしてもらえればと思う。ポイントは、「いきなり売り込まないこと」だ。初めての京都観光で、京都駅の近くでおいしいものを食べたいと思ったときにスマホでどう検索するか考えてみてほしい。

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検索行動に合わせたコンテンツの階層設計が重要

営業担当者の気持ちになる努力とやり抜く覚悟を

 最後に、2点お伝えしたい。1点目は、B2B企業のマーケターの方々へご理解いただきたいことがある。「営業担当者の目線になる努力をすること」だ。マーケティング業務ばかりやっていることで営業の日々の活動の大変さが分からないと、営業からの共感は得られない。基本的に営業は目の前の数字を追われていて、手間になることは極力避けたいというのが当たり前と考えなければならない。謙虚な気持ちで営業を理解する努力が必要だ。そのうえで問い合わせの増加など、まず数字で示せる実績をつくるべきだ。  
 2点目は、この取り組みがきっかけで今までの経営レベルでの戦略及びビジネスモデル自体に改革を引き起こすことになる、ということだ。この小さなスタートは急速に社内で浸透し、マーケティング部門や営業部門だけの話だけなく開発部門やサポート部門等、全社に影響を与えることになる。例えば、今までの受注状況がリアルタイムでわかるようになり営業組織の在り方が変わる。また売れる営業マンのノウハウが共有されやすくなる。売上と在庫のデータが連携することで無駄な資材調達が改善される。サポート部門もクレーム処理ではなく、新しい売上を作る営業のような部門として再編されるようになる。B2Bマーケティングを本格的に実施するということは簡単ではない。根気強く、そして諦めずに覚悟をもって実行して頂きたい。

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