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セミナー採録リポート3

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実践企業講演「コーポレートコミュニケーション戦略の『カワる、サキへ。』」

日本経済新聞社が今年の9月に行った日経コーポレートブランディングセミナー「変革期におけるコーポレートコミュニケーション戦略」の内容を本サイトでもお伝えします。
第2回は、川崎重工業株式会社理事コーポレートコミュニケーション部長 鳥居敬氏 に、
「コーポレートコミュニケーション戦略の『カワる、サキへ。』」と題して、コーポレートコミュニケーションを実践する企業のお立場からお話しいただきました。

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川崎重工業株式会社 鳥居敬氏

コーポレートコミュニケーションと広報の役割の変遷

 川崎重工業は1878年に造船業として創業、1896年の会社設立後、順調に多角化をすすめ、鉄道、航空機、橋梁、自動車などを手がけました。戦後、航空機製造の技術を生かし二輪車の製造を始め、また我が国初の産業用ロボットやガスタービン・プラントなどエネルギー関連、トンネル掘削機など産業機械、新幹線など鉄道車両、航空宇宙などの事業を幅広く手掛け、2016年には創立120周年を迎えました。現在、グループで売上高1兆6000億円弱、連結従業員は3万5000人、連結子会社95社というような規模に成長しています。
コーポレートコミュニケーションの基本的な考え方は、『コーポレート・コミュニケーション戦略の理論と実践』(2008年)に描かれたフレームワークで分類できます(下図)。

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 企業はもともと、社外に対して企業利益を追求するためのコミュニケーションが重視されてきましたが、最近では、社会的適正化の分野でソーシャル・コミュニケーションの重要性が高まっています。社内でも企業利益の追求のためのマネジメント・コミュニケーションのみならず、従業員満足や働き方改革など、社内的適正化のためのビヘイビア・コミュニケーションの役割も求められています。

 また、経済広報センターの「企業広報活動の変遷」(https://www.kkc.or.jp/plaza/basic/)(図表2)によれば、時代とともに企業広報の役割やキーワード、広報対象などが変化してきています。

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 1990年代に入ってコーポレートコミュニケーションという言葉が出てきましたが、そこに求められるものも大きく変わってきています。90年代はリクルート対策やIR、2000年代は地球環境問題、CSR、現在ではESG、SDGs、ダイバーシティなど幅広い社会的課題への対応が、あらゆる企業活動の評価につながるようになってきています。
社内においては、社員のやりがいがコミュニケーションの重要なテーマだと感じています。自分がどれだけ社会の役に立っているのか、自分の仕事にはどのような意味があるのか、といった意義を感じられるコミュニケーションを行うことが、やりがいにつながると思います。

川崎重工業のコーポレートコミュニケーション戦略

1.コミュニケーションの全体像とコーポレートメッセージ

 川崎重工業のミッションステートメントは「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」というものです。この理念を伝え、ブランドイメージを形成していくうえで、インナーである社員の共感や当事者意識を醸成して行動につなげてもらうことが重要だと思います。
 広報部門や経営者のみならず、当事者意識を持ったインナー全体で、一貫したメッセージによるコミュニケーションを行うことが、アウターであるステークホルダーの共感を得てファン化につながる。その結果、アウターであるステークホルダーの共感により、企業の持続的成長を促してもらえると考えました。
 わが社が、“これからの120年も事業を継続する” “事業を通じて社会課題を解決する”、さらに“従業員が生き生きと働く”、ことを実現していくためのキーワードをワンメッセージでまとめられるものはないか、と考えたのが「カワる、サキへ。」です。このメッセージを使って社会的意義を訴求する取り組みを行っています。インナーに対しては、「自分たちがカワる、一歩サキへ。」、アウターに対しては、「社会がカワる、その一歩サキへ向かって挑戦する。」という意味が込められています。
 このメッセージを、先ほどご説明した、「コーポレート・コミュニケーションの基本的枠組み」(図表1)の4つの事象をすべてカバーできる中心に位置づけました。

2.インナー・コミュニケーション

インナーに関しては、3つのコミュニケーションを考えています。1つ目は「タテのコミュニケーション」で、これは経営層から社員への経営方針の伝達などです。次に、職場内や職場間での情報を共有する「ヨコのコミュニケーション」。それから「全社的なコミュニケーション」は、グループ一体感を高めるために、交流会や技能大会、表彰などの情報発信をしています。
インナーに向けては、従来からの紙での情報発信に加え、イントラネットや動画などデジタルツールの活用を推進しています。ただ私たちの会社では、設計、営業など事務職のほかに、製造現場で働く人たちも数多くいますので、デジタルツールだけではつながりにくい面もあり、紙媒体での情報発信も重視しています。

3.アウター・コミュニケーション

アウター向けには、“社会的意義”を「リアル」かつ「エモーショナル」に伝達するために「カワる、サキへ。」をキャッチコピーとした3つのバージョンの広告を制作しました。題材は、分散型発電を可能にするガスタービン、創薬の現場などで活躍する精密なクリーンロボット、救急医療の現場で貢献するドクターヘリ、です。いずれも社会のなかで重要な役割を果たす製品を通じて、その事業の社会的意義を説明しています。

 私たちはメーカーなので技術にこだわる人も多く、こうしたCMや広告を作るときに、必ず訴求したい点として出てくるのが、“ガスタービンの燃焼効率”や“ロボットの可動範囲の広さ”“ヘリの飛行高度・速度”のような機能や性能です。確かにそれも重要ですが、その製品が社会でどのような価値が生んでいるのか、何をもたらしているのかということを訴えていかないと、社会の皆さんにご理解いただけないのではないかと思い、社会的な意義を切り口にしています。
 メディアミックスによるコミュニケーション効果の最大化という点で、アウターへの情報発信では、テレビCM、ウェブサイト、最近多くなってきたSNSでの発信など、さまざまなツールを連携して発信しています。まだ世界的にはお客様によって紙の媒体を求められるところもあり、顧客向けのPR誌など紙媒体の発刊も継続しています。また2006年に神戸でオープンさせた企業ミュージアム「カワサキワールド」でも、地域の人々や子供たちに、どのように製品が製造されるか、どのような役割があるかを知ってもらい、学んでもらえるように工夫しています。

 以上のように、「カワる、サキへ。」というワンメッセージで、アウター、インナーに情報を発信し、そのリアクションやブランド調査、意識調査を通じてフィードバックを得ながら、ブランド価値や社員のモチベーション向上につながるようにコミュニケーションのサイクルを回しています。そして、さらに広報とコミュニケーションの質を上げていけるように、継続して取り組んでいきます。

鳥居 敬氏 プロフィール

川崎重工業株式会社理事コーポレートコミュニケーション部長
川崎重工業に入社後、営業、広報、総務、人事を経て、2017年からコーポレートコミュニケーション部長を務める。

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