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Withコロナ禍においてのSDGs/ESGへの実践とブランド化の可能性2

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Withコロナ禍においてのSDGs/ESGへの実践とブランド化の可能性2

前回はバックキャスティングから考える戦略に触れた。2つ目のSDGsの本質は、「異なる社会のつながりから生まれる変革」だ。MDGsは先進国による開発途上国への開発援助だった。ところが、これでは先進国は社会課題をなかなか自分ごとには捉えない。どうしても先進国は援助してあげる国、開発途上国は援助される国として上下の関係になってしまうのだ。MDGsがあまり効果をあげることができなかった理由の1つである。これに対し、SDGsにより、先進国も含めてすべての国が共通の課題解決の目標をもつことができた。先進国と開発途上国、大企業と中小企業、NGO、NPOと市民などが対等の立場でSDGsを推進することが大切なのだ。
今までも、それぞれの国、業種ごとにそれぞれの社会課題に対して努力をしてきた。しかし、各セクターや企業がばらばらにやっていても大きな結果は出ない。自社だけで狭い分野で行動しているいわゆる「サイロ」、「たこつぼ」ではだめで、それを解消するために多くのアクターと共に行動するためにSDGsがあるのだ。先進国も開発途上国も、行政、社会、セクターがつながってSDGsという共通の目標を解決することこそ、変革なのだ。世界は「ソーシャル=つながりのネットワーク」の中で形成されている。社会課題は、この「つながり」が上手く機能していないことから起こることが多いのである。

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自社の社会的意義を考え、
ビジネスセクターも積極的に関与

 ビジネスセクターでもその試みは進む。ヤマトホールディングスの「まごころ宅急便」は高齢者の見守り、買い物支援を組み合わせたサービスである。高知県大豊町などで生涯生活支援サービスとして展開をしており、運転免許を返上した高齢者へ向けて、買い物支援や病気などの見守り支援も兼ね、商店と住民をつなぐサービスとなっている。行政は見守りサービスの代行を、店主/従業員が高齢化する商店は配達をしなくても済み、高齢者の住民達もタクシーを使わず買い物ができるなど三方よしのモデルだ。
 サラヤのアフリカ・ウガンダでのユニセフ手洗い促進活動への支援活動では、村での手洗いの普及活動だけでなく、劣悪な状態にある医療機関の衛生環境の改善にも取り組む。病院内での病気の感染を防げば乳幼児死亡率や妊産婦死亡率をさらに下げられることから、2011年に現地法人SARAYA EAST AFRICAを設立。アルコール手指消毒剤を現地生産し、医療従事者に普及させていくことを目指す、ソーシャルビジネスをスタートした。WHO(世界保健機関)は医療従事者の手指衛生を徹底し院内感染予防を目指す「Clean Care is Safer Care」キャンペーンを世界中の医療現場で推進している。ウガンダの医療機関へのアルコール手指消毒剤の普及はこの世界的な潮流を汲んだもので、政府の協力を得ている。現地生産することで、原料を極力地元で調達し、原料を生産する農家の収入向上に貢献するとともに、生産・物流のためのスタッフを雇うことで雇用を創出し、ウガンダの一般消費者にも購入しやすい価格を達成することを目的としている。サラヤ、WHO、政府、病院などが連携して社会課題解決を行う好事例だ。サラヤは自社の活動を社会インフラとして位置付けており、インフラであるからには当然、行政や市民と共創して活動していくことになる。このように、社会課題起点で、行政やNGO、NPOなどと連携し、ありたい姿を考え「異なる社会のつながりから生まれる変革」を実現している。

従来のソーシャルマーケティングとの違いは
個々の消費者より社会をターゲットにしている点

これらの取り組みは、社会課題を当初から現場の担当者が意識している点で、従来のマーケティングの発想を転換したともいえよう。これまで企業が展開してきたソーシャルマーケティングは、社会的課題を念頭に置いているとはいえ、消費者に自社がどのような新たな付加価値を提供できるかを主目的としたダウンストリーム(川下)型が中心だった。自社のリソースをベースに、マーケティングの目的として売り上げや利益に、より重きを置いた形だ。
 一方で、アップストリーム(川上)型のソーシャルマーケティングとは、公共の利益など社会構造にも影響を与えることをより重視して市場に働きかけるマーケティング活動を指す。この川上、川下の「川」は、たとえば下流で汚染された水に困っている人がいるとして、その下流でどんなに頑張っても対処療法しかできない。そうであれば、上流に遡ってそこにある工場に働きかける必要があるといったことだ。サラヤのウガンダでの活動も、医療現場の衛生環境の向上という目的からスタートしている。アップストリーム(川上)型のソーシャルマーケティングの発想から生まれた成功例の一つといえる。
このような考え方は、既存事業からの積み重ね、すなわち過去の延長線上のプランでは描きにくい。そこはイノベーションのジレンマでどうしても過去の成功体験や既存事業の拡大・成長型の思考から抜け出せないからだ。既存のやり方の延長では閉塞感を感じている経営者やビジネスパーソンも多いはずである。今までの延長線上には明るい未来がないこともわかっているが、それが現在の利益の源泉であるため、それを続けている、あるいは続けざるを得ない組織は多い。既存の思考では短期の損得にとらわれ、長期的な持続的可能性を後回しにする発想の枠組みから抜け出せないのだ。思い切って、まずは社会のありたい姿や未来像を描く。その中で自社のリソースを活用して課題解決できる分野を探し、そのための事業戦略を描く。もしリソースが必要であれば買収や提携をしたり、将来必要でないリソースをもっていたら売却するなど、ビッグピクチャーを描くことができるのだ。これは前回触れたバックキャスティングの考え方だ。それを基に他の大企業、スタートアップ、行政やNPO、NGOなどとの協業をしていくマルチステークホルダーという考え方が大切だ。企業と行政、NPOなど関係するステークホルダーが社会課題解決や地域のためにといった共通の目標をもち、そこに対して推進する。この目標がSDGsであり、地方創生や高齢者の支援という大きな目的のもと、SDGsのいくつかの目標に分解してもよい。それは企業が1社で独占して大きな利益を得るというモデルではない。適正な利益を得て、かつサステナビリティを高めていくというイメージだ。

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ニーズの源泉となる社会課題にアプローチするのがアップストリーム型の特徴

横田アソシエイツ代表取締役

慶應義塾大学大学院特任教授

横田 浩一(よこた・こういち)氏

日本経済新聞社を経て2011年横田アソシエイツを設立。15年より慶應義塾大学大学院特任教授。釜石市アドバイザー。セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に『SDGsの本質』『明日はビジョンで拓かれる』『愛される会社のつくり方』『ソーシャル・インパクト』等

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