第34回 日経企業イメージ調査
調査項目はビジネスパーソン、一般個人共通で、下記の通りである。このうち、「企業認知度」「広告接触度」「一流評価」「好感度」「株購入意向」「就職意向」の主要6項目は程度を表す複数の選択肢を設けて、その中から当てはまるものを選んでもらった。それ以外の25項目(継続調査のイメージ項目が21項目、調査年によって入れ替えることもあるトピック・イメージ項目が4項目)は当てはまると思うものに○印をつけてもらった。
主要6項目
企業認知度 | ▽扱っている製品・サービスの内容をよく知っている ▽扱っている製品・サービスの内容を少しは知っている ▽社名だけは知っている ▽全く知らない |
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広告接触度 | ▽広告をよく見かける ▽広告をときどき見かける ▽広告をあまり見かけない ▽広告を見たことがない |
一流評価 | ▽一流だと思う ▽二流だと思う ▽三流だと思う ▽わからない |
好感度 | ▽好き ▽まあ好き ▽あまり好きでない ▽わからない |
株購入意向 | ▽ぜひ買いたい ▽買ってもよい ▽買いたくない ▽わからない |
就職意向 | ▽ぜひ就職したい(させたい) ▽就職してもよい(させてもよい) ▽就職したくない(させたくない) ▽わからない |
継続調査のイメージ項目(21項目)
▽顧客ニーズヘの対応に熱心である ▽よい広告活動をしている ▽親しみやすい ▽営業・販売力が強い ▽センスがよい ▽個性がある ▽文化・スポーツ・イベント活動に熱心である ▽研究開発力・商品開発力が旺盛である ▽技術力がある ▽扱っている製品・サービスの質がよい ▽活気がある ▽成長力がある ▽新分野進出に熱心である ▽社会の変化に対応できる ▽国際化がすすんでいる ▽優秀な人材が多い ▽経営者がすぐれている ▽財務内容がすぐれている ▽安定性がある ▽伝統がある ▽信頼性がある
トピック・イメージ項目(4項目)
▽地球環境に気を配っている ▽コーポレートガバナンス(企業統治)がしっかりしている ▽女性が活躍している ▽社会貢献への取り組みに積極的
【総合得点】グーグルやヤフー、デジタル化けん引役に期待
日本経済新聞社と日経広告研究所がまとめた「第34回日経企業イメージ調査」によると、ビジネスパーソンが評価する総合得点のトップは21年連続でトヨタ自動車となった。調査21項目のうち8項目でトップ。グーグルが2位(前回6位)に上昇した。業務デジタル化のプラットフォームとして存在感が高まった。気候変動問題への関心や資源価格高騰を背景に、エネルギー関連企業の順位が上がった。伊藤忠商事20位(同40位)など、総合商社の評価が高まった。新型コロナウイルスのワクチンが話題となり、医薬品メーカーも上昇した。
DXや再生可能エネ関連上位に
ビジネスパーソンを対象とした調査では、トヨタ自動車が総合得点を算出する21項目のうち8項目でトップだった。世界的な環境規制の強化に対応して、電気自動車(EV)の開発に力を入れている。
2位のグーグルは前回と同じ「成長力がある」「社会の変化に対応できる」「国際化がすすんでいる」「優秀な人材が多い」の4項目でトップだった。データとデジタル技術で業務効率化を進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)の中心企業として注目されている。
ヤフーも14位(同32位)に上昇した。ポータルサイトを軸に、在宅勤務や巣ごもり生活を支えるサービスを提供していることが評価された。
ソニーグループが5位(同12位)となった。「社会の変化に対応できる」「成長力がある」などの項目で得点が上昇した。
パナソニックも前回23位から15位に上げた。テスラなどのEV向けに電池の生産や設備投資を拡大している。「新分野進出に熱心」「社会の変化に対応できる」などで得点が上がった。
資源高を背景に、総合商社の順位が軒並み上昇した。伊藤忠商事に続いて、三菱商事47位(同79位)、三井物産49位(同88位)、住友商事57位(同107位)、丸紅94位(同101位)などと続いた。伊藤忠商事は「社会の変化に対応できる」「営業・販売力が強い」「優秀な人材が多い」などで得点の上昇が目立つ。子会社の伊藤忠テクノソリューションズはDX支援の有力企業でもある。
原油価格の高騰、再生可能エネルギー開発の推進で注目された石油会社も順位を上げた。ENEOSは前回159位から92位へと大幅に上昇。「成長力がある」「社会の変化に対応できる」「新分野進出に熱心」などで得点が上がった。出光興産186位(同321位)などと続く。
新型コロナの感染予防ワクチンや治療薬が注目され、関連医薬品メーカーの順位が上昇した。国内でモデルナ製ワクチンを扱う武田薬品工業は前回68位から51位に上昇した。世界にワクチンを供給するファイザーは53位と前回218位から躍進。ワクチンや治療薬の開発を進める塩野義製薬も108位(196位)に上がった。
一般個人を対象にした総合得点ランキングでも、トヨタ自動車がトップ。調査21項目のうち5項目でトップとなった。「社会の変化に対応できる」「新分野進出に熱心」などで得点が上がり、ビジネスパーソンと同様に、EVへのシフトなど脱炭素への取り組みが評価された。
アルコール飲料メーカーの上昇が目立ち、サントリー5位(同6位)、キリンビール8位(同11位)、アサヒビール11位(同12位)などとなった。新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛に対応して、メーカー各社は家庭向け商品の販売に力を入れた。サントリーは「顧客ニーズへの対応に熱心」「製品・サービスの質がよい」などで得点が高まった。
通信会社の順位も上がった。楽天モバイルが2020年に低料金で携帯電話サービスに参入し、他社に値下げが波及して話題となった。ソフトバンク16位(同31位)、NTTドコモ41位(同66位)、KDDI(au)50位(同62位)などだ。楽天モバイルの親会社である楽天グループは64位(同79位)に上昇した。「新分野進出に熱心」で得点が上がっており、楽天モバイルの事業展開を評価したとみられる。
小売業も引き続き関心が高い。ファーストリテイリングは3位(同4位)に上昇した。在宅勤務に向いたカジュアル衣料の提供に力を入れた。「営業・販売力が強い」のほか、「国際化が進んでいる」の得点が高くなった。
ニトリは12位(同14位)に順位を上げた。在宅時間を快適に過ごすための収納用品や家電の品ぞろえを充実させた。「社会の変化に対応できる」の得点が高まった。
良品計画も14位(同18位)となった。キッチン用品、日用品、レトルト食品など、巣ごもり生活に密着した商品がよく売れた。「社会の変化に対応できる」「センスがよい」の評価が高まった。
【企業認知度】在宅商品でファストリ、セブン躍進
ビジネスパーソンを対象に聞いた「企業認知度」では、ファーストリテイリングが前回4位からトップに躍進した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅勤務に向いたカジュアル衣料に力を入れた。ローソンなどコンビニ大手3社も順位を上げた。ただ小売業の得点は全体として下がっている。外出自粛の広がりで、前回上位にあった外食産業やテーマパークの順位が大きく下がり、相対的に小売業の順位が上がった。在宅勤務やネット通販でポータルサイトに触れる機会が増えて、ヤフー、グーグルの順位が上昇した。
食品など、巣ごもり関連が上位に進出
企業認知度は、企業が扱っている製品・サービスの内容を「よく知っている」「少しは知っている」「社名だけは知っている」「全く知らない」の4段階で選んでもらい、得点を傾斜配分して合計した。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、主力のカジュアル衣料が在宅勤務時の部屋着として注目された。
コンビニでは、ローソンが2位(前回6位)に上がったほか、ファミリーマート3位(同9位)、セブン─イレブン・ジャパン4位(同11位)となった。自宅で過ごす時間が増え、身近な店舗を利用する生活者が増えたため、総菜、冷凍食品、酒類など自宅飲食用の品ぞろえを強化した。
無印良品を展開する良品計画が6位(同14位)となった。キッチン用品、日用品、レトルト食品などで巣ごもり需要を取り込んだ。
ただ、小売業全体の平均得点は前回に比べて0・9ポイント下がっており、コロナ禍の影響を免れていない。
巣ごもり需要で食品業種の順位が高まった。
ハム・ソーセージなど食肉加工では、伊藤ハム56位(同98位)、日本ハム59位(同100位)となった。冷凍食品では、ニチレイ84位(同148位)、マルハニチロ168位(同186位)、日本水産169位(同200位)などだった。
在宅勤務やネット通販の利用増でパソコンを使う機会が増え、ポータルサイトが一段と身近になった。ヤフー11位(同27位)、グーグル21位(同28位)、アマゾンジャパン29位(同34位)となった。
気候変動対策のエネルギー転換で話題になった企業の順位が上がった。
石油では、ENEOS108位(同143位)、コスモ石油142位(同172位)、出光興産160位(同164位)、電力では、東京電力ホールディングス157位(同172位)、関西電力174位(同189位)、中部電力181位(同200位)だった。
一般個人でも、ファーストリテイリングがトップ(同2位)となった。巣ごもり需要に応えた品ぞろえで、良品計画5位(同12位)、ニトリ8位(同15位)、IKEA31位(同42位)、西松屋チェーン39位(同79位)などとなった。
洗剤など衛生用品を扱うメーカーの評価も高まった。ライオン10位(同28位)、花王13位(同26位)、サンスター27位(同55位)などだ。
【広告接触度】ビール大手4社、広告効果高まる
コロナ禍での在宅勤務でパソコンに向かっている時間が増え、テレビ、新聞にとどまらず、インターネット広告に触れる機会も増えた。ビジネスパーソンを対象に広告を見聞きした程度をまとめた「広告接触度」では、アサヒビールをはじめ大手4社が1~4位に並んだ。東京五輪・パラリンピックをビール片手に自宅でテレビ観戦したいという人が多く、広告に注目した。巣ごもり需要を当て込んで家具、家電、日用品でも広告が活発だった。ファーストリテイリング、ニトリが順位を伸ばした。総合スーパーのイオン、イトーヨーカ堂も上がった。
マクドナルド、50周年CMが話題
広告接触度は広告を「よく見かける」から「見たことがない」まで4段階で選んでもらい、得点を傾斜配分して合計した。テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、インターネットだけでなく、イベントや交通広告、POP(店頭広告物)、日常生活で製品・サービスを見かける機会なども影響する。
広告接触度は長期的に少しずつ下がる傾向にあり、今回の全体平均は、現在の調査社数となった2016年以降、最も低い数値となった。
アサヒビールは前回3位からトップとなった。東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業として、積極的に広告展開した。若者を対象としたウェブ限定CMも用意した。
他のビール各社も、新型コロナウイルス流行に伴う外食店の休業などで業務用が振るわなかったため、家庭用の販売促進に力を入れた。キリンビール2位(前回3位)、サッポロビール4位(同7位)となった。サントリーも3位(同2位)と高評価を得ている。
日本マクドナルドは6位(同8位)となった。日本での第1号店開設から50周年を記念して作ったCMでは、俳優の宮崎美子が今と50年前の二役を演じて話題となった。木村拓哉がビジネスマンにふんしたCMも好評だった。関連の調査項目「よい広告活動をしている」の順位は前回15位から3位に上がった。
任天堂は7位(同11位)。主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の新型機発売が話題となった。ゲームソフトの広告も活発だった。
新型コロナへの対策で在宅勤務が広がり、関連商品の品ぞろえを充実させた企業の順位も高くなった。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは9位(同15位)。会員へのメールマガジン配信に加え、俳優の綾瀬はるか、歌手の桑田佳祐を起用したCMが好評だった。
ニトリは10位(同27位)に上がった。巣ごもり生活を快適にする商品をテレビCM中心に紹介した。関連の調査項目「顧客ニーズへの対応に熱心」では前回3位からトップに躍進した。
コンビニが順位を上げた。セブン─イレブン・ジャパン24位(同33位)、ファミリーマートも同じく24位(同43位)、ローソン27位(同47位)となった。巣ごもり需要に応えて品ぞろえを拡充し、テレビやウェブでのCM、カード会員を対象としたキャンペーンを組み合わせて、着実に存在感を高めた。
在宅勤務の増加や外出自粛の影響で、自宅で食事する機会が増え、ハム・ソーセージなど食肉加工品に関心が集まった。伊藤ハム90位(同134位)、日本ハム105位(同134位)、丸大食品188位(同211位)となった。伊藤ハムと日本ハムは、「企業認知度」も上昇している。
石油会社の順位も軒並み上がった。気候変動対応で、再生可能エネルギーの開発に力を入れている。
ENEOSは58位(同67位)に上昇した。二酸化炭素を排出しない水素燃料事業への取り組みを紹介した。コスモ石油は105位(同138位)。CMなどを通じて、風力発電など再生可能エネルギーを紹介した。出光興産も178位(同190位)に上がった。
AGCは素材メーカーながら、155位(同173位)に上がった。テレビCMでは、俳優の広瀬すずが社名ロゴのプラカードを見せながら、事業の多様さを訴えた。
電機では、パナソニックが前回26位から14位に上昇した。綾瀬はるかを起用したテレビCMが好評で、調査項目「よい広告活動をしている」の順位も前回136位から34位に上がった。ウェブ限定の動画広告も配信した。
一般個人に聞いた広告接触度では、日本マクドナルドがトップ(同3位)となった。ビール大手4社が2~5位に続く。上位の顔ぶれはビジネスパーソンとほぼ同じだ。
食品の得点が全体として高く、なかでもハム・ソーセージなど食肉加工メーカーの順位が上昇した。
通信、石油・土石、不動産などの業種でも順位を上げた企業が目立った。
【株購入意向】食品メーカー、宅食機会増え存在感高まる
株式を買いたい企業かどうかをビジネスパーソンに聞いた株購入意向ランキングは、味の素が前回4位からトップとなった。新型コロナウイルス感染拡大に伴い自宅で食事をする機会が増え、食品大手として存在感が高まった。ネット通販が増えて宅配便の利用も拡大し、ヤマト運輸は79位(前回142位)に上昇した。気候変動対応でエネルギー転換に取り組む石油会社の評価も高まり、ENEOSが93位(同175位)となった。ワクチン供給で新型コロナ収束に貢献したファイザーは50位(同178位)に躍進した。
ネット通販拡大で、運輸が上位に
株購入意向は、上場企業だけでなく非上場企業についても、購入できると仮定して答えてもらっている。「ぜひ買いたい」「買ってもよい」と答えた割合を合計して得点とした。
トップの味の素は、冷凍食品や合わせ調味料で高いシェアを持つ。巣ごもりでの食事づくりに重宝だ。関連の調査項目では、「親しみやすい」のほか、「安定性がある」が高かった。経営基盤もしっかりしているので、株式の買い安心感につながっている。
食品業種の評価が総じて高い。景気の先行きが不透明ななかで、着実に収益を確保できる業種と見られている。
調味料では、キユーピーが3位(同22位)となった。「伝統がある」「安定性がある」の項目で得点が上昇した。他にもカゴメ11位(同16位)、キッコーマン14位(同36位)、ミツカン27位(同62位)などとなった。
菓子では、明治が4位(同16位)。「伝統がある」の評価も高まった。カルビー7位(同15位)、森永製菓9位(同26位)、ロッテ55位(同95位)などと続く。
冷凍食品でも順位の上がる企業が目立った。ニチレイは39位(同61位)に上昇した。「製品・サービスの質がよい」のほか、「顧客ニーズへの対応に熱心」の得点が高く、巣ごもり需要を取り込んだこともうかがえる。日本水産90位(同125位)、マルハニチロも同じく90位(同140位)となった。
日清食品は8位(同22位)に入った。巣ごもり消費でカップめんの存在感が増した。「カップヌードル」発売50周年で様々なキャンペーンを展開した。「研究・商品開発力が旺盛」のほか、「親しみやすい」「製品・サービスの質がよい」の得点が高い。
巣ごもり消費の拡大で、陸運の順位が軒並み上がった。ヤマト運輸は「顧客ニーズへの対応に熱心」「成長力がある」などで評価が高まった。その他、日本通運147位(同241位)、圏外だが佐川急便208位(同294位)、日立物流327位(同446位)となった。
総合商社も注目された。伊藤忠商事は25位(同40位)となった。「営業・販売力が強い」「優秀な人材が多い」の得点が高く、コロナ禍を乗り切る経営力があるとみなされた。三菱商事39位(同53位)、三井物産44位(同60位)、丸紅74位(同89位)と続く。
カーボンニュートラル(炭素排出実質ゼロ)を目指した、石油会社の取り組みが材料視されている。
ENEOSは、「成長力がある」「社会の変化に対応できる」の得点が上昇しており、期待の高さをうかがわせる。その他、出光興産143位(同261位)、コスモ石油147位(同287位)となった。
医薬品では、ファイザーをはじめ、新型コロナのワクチンや治療薬の開発・販売に取り組む企業の順位が上がった。
モデルナ製ワクチンを扱う武田薬品工業は65位(同62位)とやや下がったが、得点は上昇している。塩野義製薬80位(同83位)、第一三共137位(同161位)、中外製薬179位(同235位)となった。
不動産でも順位を上げた企業が目立つ。三菱地所は80位(同121位)、三井不動産は109位(同139位)に上昇した。「財務内容がすぐれている」の評価が高い。住友不動産、野村不動産はともに155位(同222位)。「センスがよい」の評価が高まり、マンションブランドのイメージ向上に寄与した。
一般個人に聞いたランキングでは、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドがトップ(同2位)となった。「顧客ニーズへの対応に熱心」の得点が高く、コロナ収束後には誰もが出かけるようになり、業績の回復も早いとみている。ユー・エス・ジェイも17位(同43位)に上がった。
ニトリは前回17位から2位に上がった。巣ごもり生活を快適にする商品を提供し、「社会の変化に対応できる」の評価が高くなった。
総合スーパーなど、日ごろの買い物に使う企業の評価が高まった。
イオンは58位(同110位)となった。「活気がある」「社会の変化に対応できる」の得点が高まった。イトーヨーカ堂も127位(同224位)に上がった。
ネット通販の拡大に拍車がかかり、アマゾンジャパン21位(同33位)、楽天グループ61位(同74位)となった。
【ESG関連イメージ】伊藤忠、三井不動産のガバナンスに高評価
SDGs(持続可能な開発目標)を達成するためのESG(環境・社会・企業統治)投資に関する調査項目では、「社会貢献への取り組みに積極的」についてのビジネスパーソン評価で、ファイザーが前回240位から2位に跳ね上がった。ワクチン供給で新型コロナを収束させ、世界的な経済活動再開に導いた。医薬品が総じて高くなった。「コーポレートガバナンスがしっかりしている」では、伊藤忠商事、三井不動産の順位が上がり、上位に入った。強固な経営基盤を背景とした組織運営が評価された。
医薬品、コロナ禍で価値を再認識
「社会貢献への取り組みに積極的」はトヨタ自動車が6年連続トップ。「地球環境に気を配っている」「コーポレートガバナンス(企業統治)がしっかりしている」でもトップを維持し、ESG投資の評価で圧倒的な支持の高さを見せた。
ランキング圏外も含めて注目の企業を紹介する。
「社会貢献」では、医薬品の順位が軒並み上昇した。新型コロナのワクチンや治療薬の開発・販売を手掛けるメーカーでは、ファイザーのほか、武田薬品工業8位(同142位)、塩野義製薬19位(同230位)、中外製薬81位(同211位)、第一三共87位(同187位)となった。富士フイルムも4位(同13位)。コロナ関連など、生命科学医療分野に力を入れている。
「社会貢献」の得点の全体平均は3年連続で増加しており、企業の取り組みが次第に生活者に伝わってきたことをうかがわせる。
「地球環境」では、石油各社が上位に並ぶ。コスモ石油に続いて、ENEOS4位(同9位)、出光興産11位(同54位)となった。太陽光発電、風力発電、バイオマス発電など再生可能エネルギーの開発に力を入れている。燃料電池用の水素供給にも取り組んでいる。
「コーポレートガバナンス」では、伊藤忠商事2位(同4位)、三井不動産3位(同15位)が順位を上げた。両社は「安定性がある」のスコアも上昇。社会の変化に迅速に応えようとする組織運営が目に留まったようだ。「信頼性がある」の得点も高くなっている。
一般個人を対象に聞いた「社会貢献」ランキングでは、ファイザーがトップ(同232位)となった。
テレビ局も社会貢献が評価された。巣ごもりで、五輪観戦などテレビを見る機会が増え、テレビ局の順位が上昇した。コロナ禍に関する信頼できる情報源ともなった。NHK14位(同24位)、日本テレビ14位(同60位)、TBSテレビ53位(同156位)などだ。
コロナ対策で使う洗剤、消毒液など衛生用品メーカーの順位も上がった。ライオン10位(同46位)、花王19位(同24位)、P&G47位(同141位)などだ。
「地球環境」では、味の素16位(同52位)、キユーピー27位(同147位)、カゴメ43位(同170位)など食品の評価が上がった。各社とも、廃棄物の削減、資源化しやすいパッケージの採用、エネルギーの効率利用などに取り組んでいる。
【研究開発力・商品開発力が旺盛である】製薬会社、ワクチン開発で注目
研究開発力・商品開発力が旺盛な企業についてビジネスパーソンに聞いたランキングでは、ファイザーがトップ(前回36位)となった。遺伝子技術を用いて、新型コロナワクチンの開発で先陣を切った。脱炭素を目指して、電気自動車(EV)の開発を本格化している自動車メーカーの評価も高まった。EV大手テスラの順位が上がった。再生可能エネルギーの開発を進める石油会社の順位も高まった。業務デジタル化に欠かせないクラウドサービスを提供する企業も順位を上げた。
脱炭素のEVテスラが先陣切る
コロナ禍で衛生や医療への関心が高まった。
ファイザーは先端の生命科学によって新型コロナのワクチンを開発し、世界的な経済再開を先導した。モデルナ製ワクチンを扱う武田薬品工業も14位(同20位)となった。
独自に新型コロナのワクチンや治療薬の開発を進める国内メーカーも順位を上げており、塩野義製薬18位(同89位)、ランキング圏外だが第一三共59位(同77位)、中外製薬59位(同149位)となった。富士フイルムは7位(同8位)。コロナワクチンの受託生産、コロナ治療薬の開発などに力を入れている。
エーザイは75位(同112位)。アルツハイマー型認知症の進行を抑える新薬の開発が話題となった。
2021年は第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の開催もあって、気候変動問題が話題となった。
国内外の自動車メーカーは、ガソリン車やハイブリッド車からEVへの全面シフトに動き出し、テスラ33位(同58位)、日産自動車35位(同69位)となった。トヨタ自動車は前回と同じ2位だが、得点は上がった。
石油会社の研究開発も評価が高まっている。脱炭素に向けて、太陽光、風力、バイオマス発電などに力をいれている。二酸化炭素を排出しない燃料電池向けに、水素を供給する体制も整えている。
167位(同249位)のENEOSに続いて、出光興産197位(同462位)、コスモ石油202位(同385位)となった。
データを軸にデジタル技術で業務を効率化するデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目された。データセンターを運営するアマゾンウェブサービスジャパンは75位(同104位)。グループウエアのサイボウズは135位(同186位)だった。
ポータルサイトを中心に関連サービスを提供するグーグルは、前回30位から16位に上がった。ヤフーも97位(同129位)に順位を上げた。
一般個人を対象としたランキングでも、ファイザーがトップ(同64位)だった。
ビール大手4社の順位が軒並み上昇した。キリンビール5位(同16位)、サントリー6位(同11位)、アサヒビール9位(同16位)、サッポロビール16位(同41位)となった。新型コロナ対策の緊急事態宣言によって、飲食店でのアルコール提供が制限された。各社は業務用にノンアルコール飲料の供給を拡大した。健康志向の高まりもあって、ノンアル、低アルの飲料が家庭用でもヒットした。
コロナ感染防止に知恵を絞った外食業種でも、順位を上げる企業が見られた。
日本マクドナルドは12位(同41位)。ネット注文の拡充、非接触での配達など、店員との接触や店内の密を避ける工夫が話題となった。モスフードサービスも59位(同70位)に上がった。
不動産各社も評価が高まった。旭化成ホームズ142位(同245位)、積水ハウス173位(同200位)、三菱地所レジデンス173位(同262位)、三井不動産レジデンシャル205位(同398位)などだ。在宅勤務用ワークスペースを設ける企画提案が関心を呼んだ。
コラム
多様な評価軸で企業の本質を見る
人々が企業に対して抱くイメージは、商品やサービスを選択する際や就職・就業、投資先を考える際などに大きな影響を与える要素の一つだ。コロナ禍で人々の意識の共有化が進んだり、SDGsへの関心が高まったりして、企業が自分たちの生活や社会の中でどのような行動をとっているかに目を向ける人も多い。加えて、SNSの利用が浸透し、企業について感じたことがすぐに書き込まれ拡散するので、企業活動の様々な面を見聞きする機会が増えている。そうした環境変化を受けて、企業イメージの影響度が高まっていると考えられる。企業にとっては評価への対応やイメージの管理が、従来にも増して重要になってこよう。
イメージや評価を形づくるには、きちんとした実態が伴っていなければならないことは当然であるが、それを伝えていくことも重要だ。例えば、何かスポーツ競技の大会や団体を支援している場合、関係者や観客にはよく知られることになるが、企業価値を高め、マーケティング上の成果に結びつけるには、より多くの人々にそのことをうまく伝える必要がある。知らせることに積極的で、その仕組みができている企業はイメージも浸透していると思われる。
日経企業イメージ調査は、そうした活動を推し進める際の指標として有用だ。伝える努力をした結果がどのくらい反映されているかを知る、客観的なデータといえる。コロナ禍での動向のように年ごとの社会的な状況に伴う変化を見ることもできるが、長年にわたり手法を変えずに測定しているので長期的な傾向も把握できる。競合他社の変化も含め、短期的な動きが気になるものだが、むしろ継続的に見ていくことにとても意味がある。実際に"伝えること"の大切さを感じている企業は、この調査の数値を参照していることも少なくないだろう。
多様な評価軸、イメージ項目を測定しているのも特徴的だ。全ての項目にわたり高得点を得ることは容易ではないが、企業の実情に合わせて何か一つのイメージに着目し、変化を追うこともできよう。先述のスポーツ支援に熱心な企業のような場合は「文化・スポーツ・イベント活動に熱心である」という項目が有効だ。ビジネスパーソンと一般個人に分けて尋ねているので、それらの評価を比べたり、BtoB企業であればビジネスパーソン、一般消費者に向けた商品を多く扱う企業であれば一般個人の評価を利用したりすることも可能だ。調査対象としている企業数が多いので、業種や業態別にその趨勢を見る、平均値と比較するといったこともできる。
SDGsへの関心に象徴されるように、社会の中で企業がどのような理念や意思を持って行動しているのか、本質が見られ、よりいっそう期待を寄せられるようになっている。どういった考えでどのような活動をし、どう伝えていくか、一体として考えたいものである。
強まるESG評価の影響
近年、ESG(環境・社会・企業統治)の3要素を経営戦略の基軸に据えて積極的に取り組んでいる企業が増えている。今や、地球環境保全に寄与する活動やコーポレートガバナンスを順守する姿勢などは、"当然の対応"になりつつある。一方、異常気象、大雨・洪水被害、新型コロナ感染症等の深刻化の中で、コミュニケーションの受け手側からも、企業のESGへの取り組みに目が向けられている。今回のESGランキングはそれを反映しているといえよう。
ビジネスパーソンと一般個人、それぞれの視点での変化を読み取ることができるのが、この調査の特長だ。ビジネスパーソンの「コーポレートガバナンスがしっかりしている」イメージでは、2位に浮上した伊藤忠商事をはじめとして、統合報告書が様々な評価機関から高い評価を受けている企業が上位にランクインしている。こうしたコミュニケーションツールを活用し、財務情報と非財務情報をともに積極的に伝えている企業が支持されているようだ。
また興味深いことに、ESG関連イメージで高評価を得ている企業は「総合得点」そのものも高い、ないしは、急上昇している。「総合得点」の算出式には、ESG関連イメージの評価は含まれていないにもかかわらずだ。これはESG関連イメージが他のイメージ評価に影響していること、ESGへの取り組みの重要性が増していることの表れといえよう。
一方、一般個人による評価にも変化が見られる。「地球環境に気を配っている」では自動車メーカーやエネルギー関連企業の順位が高いのは従来通りなのだが、今回は良品計画やファーストリテイリング、ニトリ、食品メーカーといった生活に密着した企業が上昇している。コロナ禍による在宅時間の増加の中で、これらの身近な商品の環境対応を改めて知り、使ってみて実感し、共感する。その結果が反映されているのだろう。
コロナ禍が一般個人にとって深刻な社会課題であることは、「社会貢献への取り組みに積極的」イメージにも示されている。ワクチン開発に貢献したファイザーがトップに躍り出たほか、アビガン錠を製造している富士フイルムも躍進した。これらの企業はビジネスパーソンの評価でも伸長しているが、異なるのはビジネスパーソンでは医薬品メーカーの評価が総じて高くなっている点だ。一般個人は社会課題解決に向けた行動や姿勢をはっきりと感じ取れる企業に対して、より強く反応するようだ。
このように企業イメージの評価からは、ステークホルダーの評価の視点がわかる。今、社会や生活場面で深刻な課題は何か。それに適切に対応し、きちんと伝えることができた企業が注目され評価されている。そして得点やランキング表示そのものが、それを見ている他の人々にも影響を与えるのである。
第34回日経企業イメージ調査概要
「日経企業イメージ調査」は、株式市場に上場している企業および非上場企業のうち各業種の大手企業を中心に672社についての企業イメージを測定している。
≪ビジネスパーソン編≫
調査地域 | 首都圏40km圏内 |
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調査対象 | 民間有力企業に勤務する男女ビジネスパーソン。1事業所につき男性管理職(課長以上)1人、男性一般社員2人、女性管理職または一般社員1人 |
抽出方法 | 首都圏40km圏内所在の上場企業および有力非上場企業(資本金3,000万円以上、従業員100人以上)より2,802事業所(マスコミ関係は除く)を抽出 |
調査サンプル数 | 設定サンプル11,208s、有効回答者5,532s(回収率49.4%) |
調査方法 | 訪問留置法 |
調査時期 | 2021年7月~11月 |
調査実施 | 日経リサーチ |
≪一般個人編≫
調査地域 | 首都圏40km圏内 |
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調査対象 | 18~69歳の男女個人 |
抽出方法 | エリアサンプリング性年代割当法 |
調査サンプル数 | 有効回答者4,284s |
調査方法、調査時期、調査実施はビジネスパーソン編と同じ。
1人の回答者が672社全ての企業イメージを答えるのは負担が大きすぎるため、672社を21グループに分け、1人の回答者には32社の企業について答えてもらっている。
調査項目
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順位のもととなるスコアの出し方
主要6項目は程度を表す4段階の選択肢から当てはまるものを選択。それ以外の25項目は当てはまると思うものに○印を付けてもらった。主要6項目のうち「企業認知度」「広告接触度」は度合いの高い順にそれぞれ3、2、1、0点を得点として与え、その平均を100倍にした数値をスコアとした。「好感度」「株購入意向」「就職意向」は度合いの高い2つの選択肢を選んだ人の割合(%)、「一流評価」は「一流だと思う」と答えた人の割合(%)、それ以外の25項目は各項目の○印の割合(%)をスコアとした。「総合得点」は詳細21項目のスコアの単純平均。