先進性を前面に出すブランディングが定着した中外製薬。2025年には「がんゲノム医療」といった難しいテーマを広く伝えるにあたって、テレビやウェブのCMと、日経電子版タイアップを読者特性に合わせて設計し、高いパフォーマンスを実現した。具体的なプロセスと手応えを、広報のキーパーソンが語った。
※「NIKKEI FUTURE VISION 2025 ブランドとパーパスで描く企業の未来」(2025年11月12日)での登壇内容をもとに構成しています。
——企業ブランディングに本格的に取り組み始めた背景は。
日経企業イメージ調査を指標として使っているのですが、認知の落ち込みがきっかけでした。当社は2004年に一般用医薬品(OTC)事業を売却したことで一般の方々とのタッチポイントが減り、特に若い世代からの認知度が大きく下がっていました。分析から企業認知が採用意向や株式購入意向に影響することも確認でき、2014年12月から本格的にブランディングに取り組み始めました。
——ブランドとして狙ったポジショニングは。
医薬品業界では数多くの企業が「患者さん中心」「誠実」「イノベーション」というメッセージを掲げています。私たちも同じ価値観を持っていますが、それだけでは埋もれてしまうと考えました。社内外のインタビュー調査や各種データを基に議論を重ね、たどり着いたのが「革新的」「先進的」「独自性」というイメージの打ち出しです。
中外製薬は世界有数の製薬会社ロシュ社との戦略的アライアンスを背景に、ロシュ社製品を日本で独占販売するとともに、中外発の医薬品をグローバルに展開しています。また、抗体医薬品、中分子医薬品といった領域では独自性のある研究開発を重ねてきました。こうした創薬技術力は、当社の最大の強みです。そこから、革新性や先進性、独自性を伝えるコミュニケーションへと軸足を移していきました。
——その後、継続性があるテレビCMや新聞企業広告を展開されてきました。今ではCMのBGMを聴くだけで先進的なブランドイメージを想起します。
CMは10年以上継続しており「あの音楽が流れると中外製薬だと分かる」といった声をいただくことがあります。使い続けたBGMがブランドアセット(資産)の1つになったと感じます。
2022年からは俳優の松坂桃李さんを起用し、「抗体医薬品」「AI創薬」「がんゲノム医療」という3つのテーマでシリーズ広告を展開(※12月から4つ目のテーマである中分子医薬品を使った新しいCMも放映)しています。当社の独自技術やサイエンスを軸に、革新的な医薬品・サービスを患者さんに届ける企業姿勢を、ひとつの世界観で描くことを意識しました。
——「がんゲノム医療」という難しいテーマを、どのようなメディア設計で伝えたのでしょうか。
がんゲノム医療は、30秒CMだけで理解していただくには難解なテーマです。そこでテレビやYouTube、TVerなどを認知のフックをつくる役割とし、その先で日経電子版の「リッチビジュアルタイアップ」によって一段深い理解を促す、という二段構えにしました。
実際に制作したタイアップページは、スクロールに合わせてデータが動くインタラクティブな表現や、左右のカラムで概要と詳細を読み分けられる構成など、読み手の興味を持続させるための工夫を盛り込みました。
——リッチビジュアルタイアップの成果はいかがでしたか。
約3万PVを獲得し、平均滞在時間も従来の静的なタイアップの約3倍という高パフォーマンスを得ることができました。社内でも「ここまで読み込んでくれるのか」という驚きの声がありました。
クリエイティブ力とともに、日経電子版の読者が社会課題への関心が高く、難しいテーマにも真剣に向き合ってくださるビジネスパーソンである、という読者特性にもマッチしたと感じています。テーマとメディア、クリエイティブがうまくかみ合った事例だと思います。
第2弾となる、中分子医薬品をテーマにしたリッチビジュアルタイアップも11月から展開しています。抗体医薬品に続く次の柱として開発に注力している領域なので、なぜ中外製薬がこの分野に取り組むのかを分かりやすく伝えていきたいと考えています。
——インナーブランディングの役割についても教えてください。
中外製薬は2025年に創業100周年を迎えました。創業者は、関東大震災で薬が不足した状況を目の当たりにして、「世の中の役に立つくすりをつくる」という使命感から会社を立ち上げ、その想いは今も受け継がれています。
当社のイノベーション創出の源泉は、仕事に想いやこだわりを持った「ひと」です。創業100周年を機に、コーポレートサイトをリニューアルし、新たに「ストーリー」というコンテンツを立ち上げました。そこで、社員一人ひとりの想いや挑戦を記事として紹介するようにしました。
さらに11月には日経新聞に40人の社員が登場する30段広告を掲載しました。単に社名やロゴを出すのではなく、当社の最大の財産である「ひと」にフォーカスし、社員一人ひとりの未来への想いをカタチにした「My Action宣言」を通じて、当社の価値観と未来像を発信することができました。
社外向けのブランド活動と社員のエンゲージメントは、切り離せないものだと感じています。社内アンケートでは、ブランディング活動を評価している人ほど、中外製薬で働くことに誇りややりがいを感じ、モチベーションが高い傾向にあります。社外への効果的な発信がエンゲージメントにつながることがよく分かります。
——企業ブランディングに携わる中で大切にしていることは。
中外製薬がどんな会社なのかをステークホルダーの皆さまに理解していただき、「もっと詳しく知りたい」「一緒に仕事をしてみたい」「この会社が好きだ」と思っていただける状態をつくることです。社員の想いを代表して外に出すことで、社員自身がこの会社にいる喜びを感じていただきたいです。独自の技術とサイエンスで医療の未来を切り拓くことと併せて、中外製薬で働くことの意味を、社内外に丁寧に伝えていきたいと思っています。