コラム

良品計画
「企業的モーメント」捉え価値観発信

新聞 イベント

新聞の特性を利用してモーメント(読者のこころを動かす瞬間)を捉える広告出稿が増えている。良品計画は「無印良品」45周年という節目に日経新聞などを利用し、ブランドが受け継いできた哲学を今日の消費者を捉えるクリエイティブで発信した。その裏側にあった、ブランド価値の可視化やメディア選定の戦略とは。

※「NIKKEI FUTURE VISION 2025 ブランドとパーパスで描く企業の未来」(2025年11月12日)での登壇内容をもとに構成しています。

良品計画 上席執行役員 ECデジタルサービス部、マーケティング部、ITサービス部 管掌 (登壇時)宮澤 高浩氏

──新聞は周年、社名変更、社屋移転、経営統合などの「企業的モーメント」と相性が良いメディアです。良品計画さんは無印良品45周年のタイミングで企業広告「水や空気のように」を打ち出しました。

無印良品は大量生産・大量消費社会へのアンチテーゼとして素材の選択、工程の点検、包装の簡略化という「3つのわけ」を基本にものづくりを続けてきました。「これでなくてはいけない」「これがいい」という強い嗜好性を誘うのではなく、「これでいい」という理性的な満足感を届けたいという価値観です。

40品目から始まった商品ラインアップは45年の間に7,000品目以上に増え、社会的な活動の幅も広がりました。周年や記念日は、ブランドの存在理由をあらためて問い直し、生活者との関係を更新するきっかけになる節目だと思います。45周年はまさにそういったタイミングで、無印良品はこれから何を大事にしていくのかを、自分たちにも社会にも示す必要があると感じていました。

2025年8月1日に日経新聞朝刊に掲載された見開きカラー広告

──クリエイティブのモチーフに、世界各地の洗濯物を干す風景を選んだ理由は。

洗濯物を干すという行為は、どの国・地域でも共通する、ごく日常的な暮らしの営みです。異なる時代や文化の中に暮らしても、生活の基本は変わらないことを象徴的に表せるモチーフだと考えました。私たちはその変わらない営みを支える存在でありたいという「水や空気のように。」というキャッチコピーを添えています。

撮影は日本を含む複数の国・地域で行い、文化や暮らし方が違っても、風にたなびく洗濯物を見たときに、普遍の幸せを感じるような瞬間を広告にしています。

──今回の取り組みでは、動画や店舗、SNS、新聞など、多様なタッチポイントを組み合わせています。メディアの役割分担は。

キャンペーンを開始した8月1日からの2週間はシネアド(映画館で上映されるCM)で30秒のムービーを流しました。歌詞を持たない歌声と映像だけで構成したもので、心地よいハミングと、洗濯物が干され、風にたなびく光景が、観客の感情に静かに入り込む設計です。店舗ではレジ背面にビジュアルを掲出し、ホームページやSNSでも同じ世界観を展開しました。

店舗の様子(提供:良品計画)

印刷メディアの役割も重要です。XやInstagram、TikTokのようなフロー型メディアは、若い世代への広いリーチがある半面、流れ去りやすいのも事実です。日経新聞の紙面広告を組み合わせることで、手元に残り、紙面を開いて読むという行為を通じて、ブランドのメッセージを腰を据えて受け止めていただけるようにしました。

──今回の企業広告は、商品そのものについてほとんど語っていません。

短期の売上や機能訴求ではなく、どんな存在でありたいか、暮らしと社会にどんな価値を届けたいか、お客さまとどういう関係を築きたいかといった、ブランドの人格にあたる部分を真っすぐ伝えたいと考えました。

半分は生活者へのメッセージですが、残り半分は、無印良品で働く従業員や株主、取引先の皆さんへのメッセージでもあります。「私たちはこういう社会をつくりたい。そのために一緒に進んでいこう」という旗印を、社内外で共有することが目的でした。

──良品計画さんは人的資本経営に意欲的な会社です。ブランディングはインナーへの効果も意識されているのでしょうか。

定期的に行っているエンゲージメント調査で、多くの従業員が、無印良品ブランドや考え方に共感していると答えています。「感じ良い暮らしと社会」という企業理念や、「これでいい」という価値観に共鳴して入社してくれた人が多いのだと思います。その人たちにとって、自分たちの思想を社会に向けてきちんと宣言することは、大きな誇りになり得ます。

社内で旗を振っているだけではなく、外部メディアでコミットメントを表明する活動が大切です。社員がそれでより自分事として捉え、自信と誇りを持って働けるようになる効果を期待しています。

──SNS全盛の時代に、新聞、中でも日経を選んだ理由は。

日経新聞の読者はビジネスパーソンが中心で、私たちのお客さまや株主、取引先にも重なります。そして何より、きちんと向き合うべきメッセージとして受け取られやすい媒体であり、事業やブランドのスタンスをきちんと伝えたいときに、信頼感のあるコンテクストの中で読んでいただけます。保存性の高い紙面に大きく広告を掲出することで、45周年というモーメントにふさわしい覚悟と公式感を表現できたと思っています。

──最後に、今後のブランディングについて展望を聞かせてください。

無印良品は、特定の強い好みを押し出すブランドではなく、多くの人が「これでいい」と納得できる、暮らしの基本を提供するブランドです。だからこそ、派手に何かを打ち上げるというよりも、今の暮らしの中でのモーメントを、これからも丁寧に見つけていきたいと考えています。

当社は通常の業務の一環で、日頃から暮らしを観察して、小さな生活の困りごとや少しの気付きを発見し、次の商品化につなげる活動を行っています。コミュニケーションやクリエイティブも同様です。今の暮らしをしっかり見つめて、世界中の生活者の日常に「水や空気のように」日々の暮らしになくてはならない存在でありたいと考えています。

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