企業に物言う株主として注目を集めるアクティビスト投資家。短期的な利益追求の厄介者と見られる一方、企業価値向上を促す存在でもある。アクティビストの要求には、機関投資家の要望と重なる部分も少なくない。アクティビストの活動を、自社の戦略を磨く鏡として活用する方策について、日本IR協議会特任研究員・杉由紀氏に解説してもらった。
アクティビストの提案を戦略に活かす
「アクティビスト」にどんな印象を持っているだろうか。ある日突然、株主として浮上し、配当の大幅な引き上げや経営陣の交代、場合によっては株式を買い集めて経営権を握るなど、短期的な利益のために企業に難題をもちかける「厄介者」のイメージを持つ人も少なくない。だが、彼らが目を付けるのは課題を抱えた企業ばかりで、要求内容は企業価値の向上を促すものも多い。
アクティビストとは?
アクティビストとは何か。株式を保有して経営に対し積極的に発言する投資家を指す。ヘッジファンドの一類型でもある。
たまに混乱する人がいるのだが、前回まで取り上げてきた、機関投資家の「アクティブ・ファンド」とは全く違う存在だ。おさらいしておくと、ファンドマネジャーやアナリストが企業を分析し、株価が上昇しそうな企業を選び、TOPIXや日経平均などの指数を上回る成績を出そうとするのがアクティブ・ファンドだ。これに対して指数と連動するように運用するのがパッシブ・ファンドだ。
「アクティビスト」という言葉は、もともとは政治的に変革を目指す活動家、運動家を指す言葉だった。これが転じて、株主としての権利を積極的に行使し、企業に影響力を及ぼそうとする投資家をアクティビスト、アクティビスト・ファンドと呼ぶようになった。
かつては、倒産寸前の企業を安く買いたたき、短期的な利益をむさぼる存在として「ハゲタカファンド」という言葉やイメージが独り歩きしたこともある。しかし実際のアクティビストは、企業統治の改善や、資本効率の向上を求めることが多い。短期の株価上昇を狙って企業に増配や自社株買いを促す提案が多いのは事実だが、中長期的で企業価値を高めることを目的とするアクティビスト・ファンドもある。
日本株に投資するアクティビスト・ファンドは70社前後とみられる。2015年にコーポレートガバナンス・コードが発表され、上場企業は株主との対話が推奨されるようになったことをきっかけに、アクティビストの活動が活発になった。
アクティビストは何を見ているのか
アクティビストが目をつける企業には、共通する特徴がある。典型的なのは、潤沢な内部留保を抱えており、資本効率が低いケースだ。ROE(自己資本利益率)が低い、現預金を必要以上に抱えているのに配当や自社株買いに消極的といった企業は格好の標的になっている。
また、多角化の結果として非中核事業を抱え、収益性が長期的に低迷しているような企業も、資産効率を改善すべきとして、事業売却や資産圧縮を迫られることがある。
ガバナンス体制の不十分さも注目される要因だ。社外取締役が少ない、取締役会での議論が形式的、 創業家出身者が経営陣に複数含まれる、親子上場、政策保有株式が多いなどの会社は、経営陣が株主の利害を重視していないと見なされる。
大和総研の調査によれば、2024年6月の株主総会におけるアクティビストの株主提案は、44社に対して合計123議案あったが、内容で見ると、株主還元が全体の33%、配当や資本政策に関するものが22%、ガバナンス関連が19%などとなっている。
アクティビストを経営に活かす
アクティビストに狙われやすい会社とは、資本市場から見て改善余地の大きい企業ともいえる。アクティビストの要求は、他の株主や長期投資家にとっても共通の関心事であることが多い。実際、2025年6月の株主総会では、アクティビストの株主提案に賛成票が集まるケースが増えた。太陽ホールディングス、日本高純度化学、ステラケミファなどでは、50%近い賛成票が投じられた。少なくない数の機関投資家が賛成に動いたことが読み取れる。
前回触れたように、2014年のスチュワードシップ・コード導入以降、機関投資家が企業との対話(エンゲージメント)を積極化している。投資先企業の資本効率ガバナンス体制を改善するよう要請するケースも増えている。アクティビストからの提案に対して、スピーディーに答えを出していくことで、機関投資家からの評価を上げることにもつながる。
実例を見てみよう。オアシス・マネジメントは、アルプスとアルパインの経営統合に際して、株式交換比率が子会社であるアルパインの株主に不利だとして比率の修正を求めた。これに対してアルパインは、特別配当の実施、統合後の還元強化、独立性の高い第三者委員会の設置、社外取締役比率の向上、詳細な運転資金の説明と開示の強化を行った。これによって、機関投資家をはじめとする株主の賛同が得られ、株主総会で統合議案を可決することができた。
村上ファンド系のシティインデックスイレブンスは、2020年に東芝機械(現:芝浦機械)の株式公開買い付け(TOB)で過半数の取得を計画し、経営権の掌握を目指した。東芝機械は、有事導入型の買収防衛策を発表したが、それに加えて新しい中期経営計画の発表、社長の交代、特別増配、独立社外取締役による投資家との対話など、矢継ぎ早に対応策を打ち出した。有事導入型の買収防衛策とは、あらかじめ買収防衛策を設定しておく「事前警告型」と違い、実際に買収者が現れてから導入するものだ。機関投資家は通常、買収防衛策は経営陣の保身に繋がりかねないとして、導入に否定的だ。だが、これらの取り組みが企業価値の上昇につながると評価し、株主総会では経営陣を支持した。
2社に共通するのは、アクティビストに対応するにあたって、他の株主、多くは機関投資家を味方につけるような改革を素早く実行したことだ。アクティビストがアルプス・アルパインや東芝機械に対して突き付けた要求のうち、自社に当てはまることはないだろうか。機関投資家からの要望に対して、きちんと答えを用意し、改善すべきことがあればアクションに結びつけているだろうか。常日頃から機関投資家と建設的な対話を行い、少しずつでも改善を行っていれば、突然アクティビストに狙われて慌てるようなことは避けられるだろう。
※本コラムは筆者個人の見解および分析に基づくものであり、所属する団体や教育機関の公式見解を示すものではありません。
日本IR協議会特任研究員
杉 由紀氏
ビジネス誌記者、外資系証券会社および国内系・外資系の資産運用会社アナリストを経て、アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパンで日本株式調査部長を務めた。現在は企業のIRアドバイザーを務めるほか、日本IR協議会特任研究員として、企業のインベスター・リレーションズや経営戦略策定等のアドバイスを提供する。ピクシス合同会社代表。
