第72回 日経広告賞審査講評

総合審査

広告を通じて成長する企業

早稲田大学商学学術院教授 嶋村 和恵 氏

今回は審査の手順に1段階加わり、審査委員は事前に審査サイトで候補作を見ておくことになった。最近の新聞広告は紙面に加えて電子版と連携することもあり、審査サイトから企業サイトに飛ぶこともあった。当日、紙面広告の現物を確認すると印象が違うと感じることもあり、むしろ紙面を見る重要性が分かったともいえる。

大賞のニチレキはここ数年の日経広告賞を通じて力をつけてきた。道路やアスファルトなどのインフラは機能して当たり前と思われがちだが、様々な工夫をしてそれらを維持していることを発信している。「車輪の下。」「ノアの橋梁。」という紙面での大きな文字には強いインパクトがある。自社が何のために存在しているかを、広告を使って伝える熱意が感じられた。

実は申し訳ないが、ニチレキという会社については、詳しくは知らなかった。この数年間、日経広告賞に出てきて初めて意識した企業だ。それだけアスファルトや道路といったインフラにかかわる企業は一般には知られていないということだ。道路や橋などのインフラはあって当たり前、ちゃんと機能して当たり前、と思っていたが、いろんな先端技術を使って工夫して維持できているということをニチレキは発信している。

今回の大賞受賞は、これまでも広告賞に参加して賞を取ってきたことによって、ニチレキという企業の広告に対する考え方がより明確になった結果だと思う。広告を通じて成長する企業といえる。こうしたBtoBの企業広告は日本経済新聞のような紙面に掲載するのは当然ではあるが、ビジネスパーソンではない人たちも見ていることを意識して広告が作られている。

最優秀賞の2つも対照的で面白い。赤城乳業は1本80円ほどの氷菓・ガリガリ君、ルイ・ヴィトンジャパンは数十万円のブランド品と、全く違うタイプの広告だが、どちらも知的な読者を想定してつくられている。両社の広告を見て、日経らしい広告と日経らしくない広告の両方があるべきだと感じた。ビジネスパーソン向けのイメージがある新聞にあえて載せる「らしくない」広告、いい意味での読者の裏切り方も必要と思った。

赤城乳業の広告は日経らしくないかもしれない。氷菓やマンガ的なイメージをあえて硬派の印象がある経済新聞にぶつけてくる。一方、ルイ・ヴィトンジャパンはブランド商品を日経に当ててきて、さらに大胆にもラッピング。そういう広告が日経に載るといういい意味での読者への裏切り。これが異なるタイプの企業の両方で起きているということが面白かった。

今後はいかにデジタル広告を見たいと思わせるか、誘導の努力が必要だ。読者にスキップされがちなのがデジタル広告の難しさ。デジタル広告は視聴者に強制的に見せられればいいが、本当にどれだけの人が自発的に見るか。いかに誘導するか、見たいという気持ちを起こさせる努力が必要になる。コンテンツの中身が良くても、視聴者がそこにまでたどり着かないのがデジタル広告の難しさ。面白いと思える、面白さを伝えられる、ネットで話題にできる、という見た人への「特典」が重要になる。

環境部門

具体的な素材を提示した分かりやすい広告が増える

慶応義塾大学総合政策学部教授 桑原 武夫 氏

環境広告は、「次のフェーズ」がもう始まっていると感じた。今までのようなクリエーティブで「カッコよさ」をアピールするだけでは駄目で、「その次に何があるのか」を読者に見えるようにしなければならない。きちんと見えた作品が上位に入ったと思う。

全体的には、具体的な素材を全面に押し出した広告が目立った。抽象的なコピーだけだと読者にとっては分かりにくい。読者は環境の専門家ではないので難しい表現は禁物だ。見てすぐに内容を理解できるようなクリエーティブであることが求められる。

最優秀賞を受賞したニトリの広告は、リサイクル活動についての詳しい説明があり、読者にとって非常に分かりやすい内容だった。また、迫力を持って伝えたことで、企業としての本気の努力も感じた。広告として、紙面だけでも完結しているが、QRコードを付けることによって、具体的な取り組みが詳しく分かる仕掛けになっていた。コミュニケーションの入り口としてうまく機能しており、効果的な仕掛けだったと思う。

優秀賞には住友ゴム工業が選ばれた。タイヤという商品を取り上げ、持続可能な社会にいかに貢献しているかを訴求した。ゴムと木と影のビジュアルが綺麗で目を引く。無限大のデザインも良く、ビジュアルを一瞬見ただけで理解が進む。広告を見た読者は、企業イメージが良くなったと思う。

環境広告は、「環境問題を解決するために、どのように貢献しているのか」がダイレクトに伝わるものが良いと思う。広告を使って、うまく伝えてほしい。

日本経済新聞の読者はハイレベルな方が多い。単なるムードだけの内容よりも、具体性のある取り組みを実証的なデータとともに示していくことが重要になってくる。

新聞紙面では動画のような広告表現はできないが、作品にはデジタルの媒体と違った工夫が感じられ、紙面に内容が凝縮されているという良さを感じた。

パーパス・ESG部門

素材を提示して企業の問題意識を読者も共有

慶応義塾大学総合政策学部教授 桑原 武夫 氏

今回は、1つの素材を提供して読者に問題意識を持ってもらい、「企業がどのように社会に役立っているのか」を理解してもらう作品が多く見られた。インパクトがあり、分かりやすくて読者に納得感があったと思う。

「パーパス」と「ESG」が同じ部門になっていることで、長期的な企業姿勢が明確に広告で表現されている広告が上位に入っている。実際に広告になるまでのプロセスで、社内では様々な葛藤があり、喧々諤々の議論があったのではないか。

最優秀賞を受賞したカネカの広告は、海洋マイクロプラスチック問題について取り上げている。ウミガメを前面に置いた印象的なビジュアルと説得力のあるメッセージが込められていた。読者が頭の中で広告の説明について情報処理をすることで、印象も定着している。取り組みについて、読者の期待を抱かせる広告だ。「問題提起のレトリック」の手法も使っている。

優秀賞には、全国農業協同組合中央会(JA全中)が選ばれた。「国消国産」を訴求。国内農業の持続可能性の大事さを伝え、需要を喚起した。読者が薄々感じていたことを数字で明確にした。それを見た読者は、「自分が何とかしないといけない」と思う内容になっている。問題提起で読者に考えてもらい、自社と結びつけてもらうことで広告効果を上げたと感じた。色彩豊かなビジュアルにも工夫が見られている。

惜しくも選に漏れたが、イオンモールの広告は訴求ポイントが消費者目線であることが良かった。また、森下仁丹が仁丹によって会社のロゴを表していたことも新鮮だった。

何をやっている企業なのかを分かりやすく説明したうえで、自社のパーパスとうまくリンクさせた企業が上位に入った。「パーパス」や「ESG」というと、お説教のような内容になりがちだが、自分の言葉できちんと語っていた企業には好感が持てる。

アニバーサリー部門

強い主張をもちつつ、地に足についた、顧客視点の広告

青山学院大学経営学部教授 久保田 進彦 氏

本年度の審査では運営委員会から3つの基準が提示された。①社名変更や事業組織体制の変更に加え、周年広告や上場記念広告などが読者に明確に伝わる内容であるか、②コピーやクリエイティブなど広告表現が適切であるか、③掲載のタイミングやシリーズ性などに工夫が見られるかである。これらのなかでも、2つめの広告表現の適切さはとりわけ大事である。そこで自分なりにさらに基準をつくって見るようにした。

1つめは「明確な主張があるか」である。この基準を企業のパーパスにあてはめてみると、自分たちは何かを行わないかを読み取れるかがポイントとなる。夢を語るような差し障りのない表現では、この基準をクリアできない。その主張が本気かどうかに着目した。2つめは「実際の企業行動に結びついているか」である。広告の中だけの主張でなく、日頃行われているものかを考えた。3つめは「訴求対象を意識しているか」である。これは審査委員の笠松良彦様も指摘されていたものであり、誰に対して訴えているのかが明確であり、なおかつその人たちにとって嬉しい広告であるかということだ。さらに広告作品として美しいか、グラフィックがきれいかにも着目した。

こうして見たときに、最優秀賞のカモ井加工紙の広告には、同社がこれまで行ってきた企業活動の歴史やアイデンティティが、分かりやすく、そして美しく表現されている。ハエトリ紙メーカーとして誕生し、マスキングテープにまで事業領域を広げてきた企業アイデンティティが一瞬にして読み取れるし、自分たちは何の会社なのかが明確に表現されている。優秀賞のサントリーホールディングスはサントリーウイスキー100周年の広告である。この広告もウイスキーづくりに対する思想をつづるかたちで、自分たちの考えを主張している。カモ井加工紙とサントリーホールディングスの広告は、グラフィック水準の高さが審査員から指摘されていた。

入賞しなかったものの中にも、良い広告が見られた。カシオ計算機の発売40周年を迎えた「G-SHOCK」の広告は、明確な主張、実際の企業行動に結びつき、訴求対象の意識という点では最も優れていたかもしれない。やや無骨なグラフィカルが、かえってG-SHOCKファンの心を掴むように感じられた。ファンを大事にしている広告だといえるだろう。講談社の「ブルーバックス」創刊60周年の広告も同様である。シンプルな構成だが、同書シリーズのファンや科学が好きな人を意識した、受け手に優しい広告だと思う。さらに創業40周年にあたるカプコンの広告もファンを意識している。「大阪から、世界へ。」というコピーとゲームキャラクターが満載されたグラフィックはゲームファンの心に刺さるだろうし、さらには社員の共鳴も得られる作品ではないだろうか。受け手の気持ちに立った訴求には、ファンの信頼感や社内の士気を高める可能性がある。

アニバーサリー広告には実際の製品が登場しないことが多いので制作にも苦労が多いはずだ。しかし無難にまとめられた広告ではなく、強い主張をもちつつ、地に足についた、顧客視点の広告が増えることで、この領域がさらに活性化し発展していけばと思う。

文化・スポーツ部門

読者が応援したくなる印象的な作品

専修大学経営学部教授 石崎 徹 氏

今回新設された文化・スポーツ部門だが、スポーツ部門はゴルフ優勝広告に代表されるように比較的企業色が強く、個人の好みに左右されるところが大きい。一方の文化部門は、建物や自然などインパクトのあるビジュアルの美しさが目立った。上位の作品はクリエーティブが印象的で紙面全体にインパクトがあった。

最優秀賞のユニクロは、ブランドアンバサダーを務める車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾選手の現役引退に合わせて、これまでの活躍を労う広告となっている。ウィンブルドン、全豪オープン、全仏オープン、全米オープンの4つのトーナメント大会に加えてパラリンピックも制覇し、生涯ゴールデンスラムを達成した国枝慎吾さんの、体格が細くてユニフォームが黒く汚れた11歳の時の写真とウィンブルドン選手権車いすの部男子シングルで優勝した瞬間のたくましい写真を並べながら、11歳の国枝慎吾くんに語りかける内容となっており、2枚の写真だけからもストーリーを感じることができる。広告を見た読者が応援したくなる印象的な作品であり満票であった。

優秀賞のベネッセホールディングスは、社名の由来でありフィロソフィでもある「よく生きる」を同社発祥の地である瀬戸内の海を背景にして現代作品アーティストの草間彌生さんの「南瓜」を置くことで同社のブランドを訴求する広告となっている。ベネッセホールディングスと福武財団が展開しているアート活動である「ベネッセアートサイト直島」にある桟橋に、草間彌生さんの巨大な「南瓜」が復活したことを知らせる内容となっている。新聞の全面を使う15段広告はクリエーティブがとても大事になるが、瀬戸内海の穏やかな海をバックにした古びた桟橋に特徴的な南瓜に水玉模様の作品がポツンと置かれていて印象に残る。島とアートが共生することでいつもの日常の中に、どこにもない特別な風景が生まれると語りかけ、見た人の気持ちが安らぐ広告になっている。

新聞広告は活字から伝わる力が求められる。特に受賞した2作品は紙面から響いてくるものが強く、企業が伝えたいところにつながっていてとてもわかりやすかった。惜しくも受賞は逃したが、ニューバランスの広告はストレートなスポーツジャンルの広告でインパクトがあったが、国枝選手のエモーショナルな内容に及ばなかった。審査対象作品はフィジカルな面のスポーツだけでなく、頭脳プレー的な将棋などもスポーツにあたる。将来的にはeスポーツなどの広告も出てくると思われる。

文化ジャンルで「ベネッセホールディングス」が受賞、スポーツジャンルで「ユニクロ」が受賞したことで各ジャンル1点ずつとなって結果的にバランスよく収まった。しかし各委員からこれほどの異ジャンルであるにも関わらず2点しか選ばないことを含め、文化とスポーツを一緒に審査するのは難しいという意見も出たことが今後の課題である。

第50回 日経産業新聞広告賞

紙面広告が持つ「強み」に着目

早稲田大学商学学術院教授 恩藏 直人 氏

今年の作品は、企業や製品が持つ技術力の発信など日経産業新聞特有の紙面広告が多かった。その中でも、見た目や発信のタイミング・展開方法において「インパクト」のあった作品が受賞したといえる。

大賞に選ばれた鹿島建設は、自社が持つ制震技術を揺れてもグラスからこぼれない水にたとえ、クリスタルの広告と見間違えるほどの美しいクリエイティブで審査員の目をひいた。また、掲載日も関東大震災から100年となる9月1日に合わせたものだった。読者の注目を集めるクリエイティブと発信のタイミングが秀逸で、自社が持つ技術の高さと生活に寄り添う安心感を適切な形で届けている。メッセージを届ける先の読者を適切に捉えた、完成度の高い作品だった。

最優秀賞に選ばれたのは、インフォマートだ。日本で知らない人はいないであろう、豊臣秀吉を起用したクリエイティブで発信全体の「上手さ」が特に目立った。歴史上の人物を用いる作品は過去にも多かったが、自社が持つ製品の魅力を最大限に表現する上で、サービスの特徴を彼が読んだ一句になぞらえて表現していることが評価できる。QRコードを用いたクロスメディア発信も秀逸だった。

優秀賞に選ばれた各作品も、企業の取り組みや姿勢を丁寧に発信している作品ばかりだった。

パナソニックの作品は、新製品「タングステン極細線」を用いて鳳凰を表現した大胆なクリエイティブで、素材がもつ細さ・しなやかさ、強さを見事に表現した。

オー・ジーの作品は創立100周年に合わせて多様な事業領域が身近な生活に貢献している様子を表現した。柔らかいビジュアルで表現が難しい化学品専門商社の事業を分かりやく訴求した。 

文化シャッターも、エスコンフィールドHOKKAIDOに自社のシャッター製品が採用されていることを訴求し、自社の技術とともに生活者に身近な存在であることを伝えた。

惜しくも選に漏れた作品にも、各社の企業姿勢を適切に訴求したものが多かった。

今回評価された作品は、訴求がもつ意義・タイミング・クリエイティブといったあらゆる面でのインパクトから審査員の注目を集めた作品といえる。

これらの「インパクト」こそ、紙面広告がもつ強みといえよう。近年、デジタルでの広告発信がその「効率」の良さから注目されている。しかし、私たちの研究においても紙面広告がもつ「効果」はデジタル以上のものがあるとされている。「効果」とは、企業がもつ技術や製品・サービスの魅力だけではなく、伝えたいメッセージが正しく伝えたい人に届くということだ。プロがプロに技術やサービスを訴求する日経産業新聞での紙面発信は難しいものだが、本広告賞でも評価されたように、発信に「何を・誰に・いつ伝えたいのか」といった意義を持たせることが今後も重要になってくるだろう。

第52回 日経MJ広告賞

継続的なメッセージ発信から伝わる真摯な姿勢

筑波大学副学長・ビジネスサイエンス系教授 西尾 チヅル 氏

今回の審査会では、日経MJに出稿する意義とは何かを、自分なりに考えながら委員の皆さんと議論をした。出稿された広告を作品として捉えると、どうしても表現のユニークさやインパクトに目がいきがちだが、SDGs訴求の作品が増えていることもあり、日経MJにおいて設定したターゲットに向け、真摯に且つ継続的にメッセージを伝えるという企業姿勢が、評価のポイントであったと考えている。

大賞を受賞した岩塚製菓は、創業時からの理念と共に、お米と米菓の新たな可能性を優れたデザインで訴求。ターゲットに合わせた掲載タイミングほか、ぬくもりや優しさをまとったイラストにより新商品とその世界観を丁寧に伝えており、非常に心地良いといった高い評価を得た。

最優秀賞に選出されたニチバンは、これまで継続的に掲載してきたプロジェクト訴求をさらに進めるため、プロジェクト参画企業から寄せられた声をセロテープのデザインにのせ掲載。各企業と向き合う従業員への訴求効果の指摘ほか、シリーズ継続を求める声が多く挙がった。

優秀賞のドールは、ニチバン同様流通・小売りへのプロジェクト訴求が目的だが、消費者の声を拾いつつ、無理なく、誰でもできる環境配慮という思いを「ほんの少しだけ」という言葉を使うことで、さりげなく、それでもしっかり伝えたい情報をまとめた内容が高く評価された。

同じく優秀賞のリクルートホールディングスは、そのインパクトが最も大きかった。コピーで訴求内容をすべて語っていながらデザイン処理がうまく、読ませる広告になっていた。業種を問わず人手不足とその効率化が求められる社会情勢を踏まえ時宜を得た展開であったと思う。

惜しくも選に漏れた作品にも良いものがあった。きれいなビジュアルにより高い視認性を獲得した住友化学の環境共生広告。対照的にインパクトのある強いビジュアルでストレートに商品訴求した鹿児島黒牛。ターゲットを明確にしたうえで内容を変え、4回シリーズの記事体広告を展開した米国食肉輸出連合会も印象的であった。

日経MJの広告は、さまざまな市場にコンタクトを持つ読者に向けられている。そのため、購買に結びつけるために、価格や機能訴求を図る広告が多い。しかし昨今のSDGs広告の増加傾向に見られるように、自社従業員が消費者や顧客企業と関わる際、背景にある理念を共有・開示できるようなインナーコミュニケーションにも目配りした、広告出稿が増えることを期待したい。

第15回 日経ヴェリタス広告賞

「面白くて楽しく、美しくて役に立つ」広告を

東洋大学名誉教授 疋田 聰 氏

応募されたいい広告の中から最もいい広告を選ぶのが広告賞の選考であるが、なぜそれがいい広告なのか、その理由を一言でいうことは簡単ではない。そもそも「いい」という言葉(「いい」は「よい」の言い換えだそうですが)は良い、佳い、善い、好い等と書けるように多面的でそれぞれ意味、ニュアンスが違う。だから、どの面を重視するかで、最もいい広告は変化してくる。

いい広告とは「面白くて楽しく、美しくて役に立つ」広告だと考えている。

さて、今年の大賞は「Global X Japan」だった。ややクラシックなレイアウトとコピーで、商品の良さと企業のプレステージの高さを醸し出しているところを評価した。この広告はシリーズ展開でストーリがあること、レイアウトがほぼ統一されていること、コピーが素直で変なテクニックがないこと、商品自体の良さに焦点が当てられていること等が特徴で、全体のトーンがややクラシックである。制作者が意図していたかどうか分からないが、それが、Global X Japanのプレステージの高さをなんとなく感じさせることに繋がっている。今風ではないところが、なかなか味わいのある広告である。(オグルビーを思いださせた)。

惜しくも大賞受賞にはならなかったが、大和アセットマネジメント、PGIM、ピムコジャパンリミテッド、マニュライフインベストメントの作品もいい広告だった。大和アセットマネジメントは3回のシリーズ広告でドラッカー研究所のデータを活用した商品の優れていることを主張し、なかなか説得力があった。データの計算法についてより分かりやすく述べていたらもっとよかったと思う。PGIMはデザインがスマートで印象的、毎回ちょっとしたコラムを入れるとさらに読者の関心を呼ぶように思われる。

ピムコジャパンリミテッドは記事体で情報量が豊富、媒体の特性に合っている。マニュライフインベストメントはサステイナブル投資という特性を爽やかな写真で表現している。

さてこれら5社の広告は「面白くて楽しく」とは言い難いところもあるが、軽佻浮薄感漂う「投資推進ムード」に対して見識を示すことになったと思う。

井上ひさしの言葉「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」。そして、何よりも「家族に自慢できる広告を創る」ことに知恵を絞った広告をこれからも期待したい。