コラム

【アジアにおけるESGの潮流】Nikkei Asia ESG Initiative ウェビナー S(社会)編を開催しました。

グローバル
【アジアにおけるESGの潮流】Nikkei Asia ESG Initiative ウェビナー S(社会)編を開催しました。

日本経済新聞社グローバル事業は7月2日、英字ニュース媒体Nikkei Asiaの説明会をオンライン開催しました。環境や社会課題の解決に向けた取り組みが世界で活発になるなか、経済成長の著しいアジアに注目が集まっています。今回は「E(環境)S(社会)G(ガバナンス)」における「S」に焦点をあて、Nikkei Asiaの奥村茂三郎編集長からアジアにおける課題とNikkei Asiaの報道姿勢についてご紹介しました。また、ESG投資の専門家である法政大学人間環境学部の長谷川直哉教授からは、企業によるSX(ソーシャル・トランスフォーメーション)の重要性について講演していただきました。本レポートではその内容についてご紹介します。

幅広い要素を包含する「社会」への対応

ESGの「S(Social、社会)」には雇用や労使関係、人種や性差といった様々な要素が含まれます。公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によると、企業がESGのなかで関心を持つ項目をランキングしたところ1位「コーポレートガバナンス」、2位「気候変動」、3位「ダイバーシティ」となり、以下「人権と地域社会」「健康と安全」と続きます。企業ガバナンスの根底には雇用環境の良しあしが密接に関わっていますし、環境汚染や資源の問題はその地域の人権問題にも深く関連しています。Sの要素は多岐にわたるため、幅広い関心を企業から集めているのです。

アジアで特に注目を集めているのが企業のサプライチェーンと人権リスクの問題です。近年、大きな問題となった中国・新疆ウイグル自治区における綿花生産と人権弾圧。新疆ウイグルは世界の綿生産量の2割を占める一大生産地ですが、この新疆綿を巡って、中国政府がウイグル族に強制労働させた疑いがあるとして欧米諸国が問題視しています。原材料に新疆綿を採用するアパレル業界には大きな波紋が広がり、新疆綿を使わない方針を打ち出したスウェーデンのH&Mは、反発した中国消費者からボイコットを受け中国での売上高が急減しました。

フェアな報道を貫くNikkei Asia

日本でも「無印良品」を展開する良品計画や「ユニクロ」を持つファースト・リテイリングの動きが注目を集めています。4月、Nikkei Asiaに掲載した「Japan retailer Muji downplays concerns over Xinjiang cotton」という記事では、良品計画が外部の第三者機関による現地監査を実施し、国際労働条約のルールに則ったビジネスを行っているとの主張を紹介しました。奥村編集長はこの報道姿勢について「単に欧米政府や国際機関による非難に乗じるのではなく、企業側には企業のロジックがあり、グローバルビジネス上にこうしたリスクが浮上していることを丁寧に伝えた」と説明しています。

また、ミャンマーにおける軍事クーデターも企業にサプライチェーンの見直しを促しました。クーデター発生直後、キリンビールは国軍系企業との合弁事業解消を公表し、投資家やステークホルダーの懸念払しょくにいち早く動いています。グローバル展開する企業にとって、自社製品にどのような原料・資源が使われているか末端まで監視の目を届かせることは簡単ではありません。一方で、社会問題に関わっていないかという消費者の目は厳しくなる一方です。奥村編集長は「背景にESG投資の大きな潮流があり、日々のニュースから起きている事象をきちんとフォローしてほしい。『中正公平』を社是とする日経の英字媒体として、Nikkei Asiaでは企業の主張も丁寧に伝え、フェアな報道を実践していく」と話しました。

社会課題の解決にビジネスを進化させるSX

続いて長谷川教授が登壇し、企業と社会の関係性がどのように変遷してきたかを紹介しました。ここは大きく4段階に分けられます。①第二次世界大戦後の企業は利益を生み出し税金を納めることが最大の使命とされてきましたが、②四大公害問題などを経て90年代半ばからは、稼いだ利益を使って社会課題に取り組む「CSR(Corporate Social Responsibility)」という言葉が定着しました。その後、企業のグローバル化に伴って③社会の困りごとに本業を通じて解決策を提示しながら自社の経済的な価値を高める「CSV(Creating Shared Value)」という考え方が登場し、現在では④企業が存在することで生じるさまざまな課題に対して、企業の責任で解決することを目指す「SDGs(Sustainable Development Goals)」という概念が注目を集めるようになりました。この持続可能な形で収益力とESGの両立をはかり、経営そのものや投資家との対話のあり方を変革する取り組みがまさにSX(Sustainability Transformation)なのです。

長谷川教授は「消費者は自分の価値観や信念を表現する手段として購買行動をとるようになっており、企業が製品・サービスを通じて『サステナブル・ストーリー』を提供することが欠かせない」と指摘します。例えば三菱地所は2008年から山梨県のNPO法人と連携し、都市部と農山村の抱える課題を交流を通じて相互解決することに取り組んでいます。限界集落地域では林業の担い手が減少し、荒廃森林が増えています。こうした資源を活用した間伐材ツアーを行い、三菱グループの住宅メーカーにその材木を供給。輸入木材の価格が高騰するなかで材料コスト削減に役立てています。また、シチズン時計は女性向け腕時計ブランドに「コンフリクトフリー」を打ち出しました。素材となるスズやタンタルなどの鉱物は主な採取地域のコンゴ民主共和国周辺で武装勢力の資金源となっているとされ、こうした紛争鉱物を使わないことを表明。20~30代消費者の共感を呼び、売れ行きは上々だと言います。

かつて、CVCCエンジンの開発によって米国の厳しい自動車排出ガス基準を世界で初めてクリアしたホンダは、環境課題の解決とコアビジネスのイノベーションを結び付け、SDGsやCSVを先取りしたケースとして称賛されました。グローバル市場において、社会課題の解決と新たなビジネスのルールをいち早く確立することは企業の競争力に直結します。長谷川教授は「日本企業はルールメイカー(ルールを作る側)ではなくルールテイカー(ルールを受け入れる側)と言われがちだが、社会と企業の関係性が大きく変化するなか、ルールを作る側として正しいサステナブル・ストーリーを積極的に発信していくべきだ」と呼びかけました。

Nikkei AsiaからTop Messageを世界のStakeholderへ

媒体説明パートでは存在感の増すアクティビストの動きを紹介しながら、ESG対応に海外のStakeholderから厳しい視線が注がれている状況を説明。また、彼らへのコミュニケーション施策としてNikkei AsiaでのTop Messageプランを紹介しました。

7月2日開催Nikkei Asia メディア説明会のアーカイブ視聴が可能です ※要視聴登録

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